爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「食の終焉」ポール・ロバーツ著

本書副題にあるように「グローバル経済がもたらしたもうひとつの危機」というものが本書内容を良く表しています。

 

グローバル経済は金融や資本といった方向でも様々な問題を世界中に引き起こしていますが、本書で提起されている「食糧問題」に対しても大きな影響を及ぼしています。

そして、金融などはたとえ大混乱が生じても直接には人々の生命を奪うことは少ないのですが(間接的には非常に危険ですが)、もしも食糧問題で事が起これば多くの人々が餓死する危険性もあります。

 

著者のポール・ロバーツさんはビジネスや環境について長年取材しているジャーナリストですが、食糧問題に関しても世界中を飛び回り多くの取材をしているようです。

日本にも訪れ、九州で合鴨農法を行っている古野さんの水田を視察したそうです。

他にも欧米はもとより、中国、インド、アフリカ、ブラジル等々、食糧問題に関わる地域を訪れその問題点を探ってきました。

 

そういった取材をもとに、現在の食システムについて、第1部「食システムの起源と発達」 第2部「食システムの抱える問題」 第3部「食システムの未来」に分けて構成し多くの問題点を明らかにしています。

 

現在の食システムについては、農業、畜産業等の原材料生産の場面、食品工業の問題点、小売業のグローバル化と寡占化、そして安価で高カロリーの食品を詰め込まれた人間たちの肥満といった現状を描いています。

食品工業のグローバル化で、ネスレ、ハインツ、ゼネラルフーヅといった超大企業の大規模生産が世界の食品を一手に収めるという成功を手に入れました。

しかし、その王座もあっという間に危うくされています。

それが巨大スーパーマーケットによる小売業の支配でした。

アメリカではウォルマート、クローガ―、セイフウェイ、アルバートソンといったスーパーマーケットが他を吸収合併することで独占的な小売業支配を成し遂げてしまいました。

そうなってくると、いかに巨大食品工業会社と言えど小売業からの価格引き下げ要求を断るわけにいかず、際限ないコスト削減に巻き込まれることになり、一気に食料品生産流通の過程でのトップの座を追われてしまいました。

それはわずかここ20年程度のことであったようです。

 

現在の食システムの危険性は中国の台頭にも由来します。

それまでは農業国でほとんど食料輸入もなかった中国が経済発展により輸入量を増やしています。

一時はアメリカ産の大豆の大部分を中国が買い占めるまでになっています。

これは中国人が肉類などを多く食べるようになったことも一因です。

それは世界の食糧生産と消費のバランスを大きく変えることにもなり兼ねません。

 

食システムは病原菌によっても脅かされています。

病原性大腸菌のようにかつては知られていなかった病原菌による食中毒も激増しています。

また畜産業で抗生物質を大量使用することで耐性菌が生まれ治療困難な感染症の危険も増加しています。

さらに、高病原性鳥インフルエンザの流行、そしてそれが人間に感染するように変異した場合の危険性も増しています。

 

こういった危険性の指摘と比べればはるかにささやかな記述ですが、「食システムの未来」についても描かれています。

オーガニックと遺伝子改変技術と言う、まったく逆のものもこれからの食システムに関わってくるでしょう。

また大規模農業の存続が危なくなってくれば、小規模の農業も復活する可能性もあります。

そこにはやはり「持続可能性」や「地産地消」といった合言葉が出てくることになります。

グローバリゼーションとは逆の方向への進行が求められるということでしょう。

 

食の終焉

食の終焉