爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「感染症、AI新時代を生き抜く 科学知識の身につけ方」竹内薫著

サイエンスライター、(本書の著者肩書には「科学作家」とあります)で数多くの著書を書いている竹内薫さんが、感染症やAIの脅威(この2つを並べるのもなんですが)に立ち向かうために読んでおくべき本をあげているという本です。

 

前書きには「私は”本を読む”のが好きなのであって、”本を書く”のは付随的にやっているだけ」と書いているほどで、本を読んで書評を書くのが一番社会から評価されているのではないかと考えているそうです。

そんな竹内さんが、今の世の中で焦点になっている分野でどういう本を読むべきと考えているか。

 

最初に取り上げられているのは、医師でジャーナリストでもあるという村中璃子さんの

「10万個の子宮」という本です。

これは子宮頸がんワクチンの接種という問題について詳しく取材したレポートです。

しかし、その副作用という問題を取り上げるだけでなく、このような村中さんの活動に対する社会、マスコミなどの反応というのも大きな問題として扱われています。

村中さんが海外で大きく評価され「困難や敵意に遭いながらも科学の普及に尽くした人」に贈られる世界的に権威のある賞を受賞したということも、ほとんどのマスコミは報道すらせずに無視している状況であるということです。

ワクチンの副作用という問題に疑問を投げかけることすらできないのが今の日本だということでしょう。

 

広瀬弘忠さんの「人はなぜ逃げ遅れるのか 災害の心理学」も紹介されています。

これは正常性バイアスというものの怖さを描いている本ですが、私もかなり前になりますが読んで書評も書いていました。(エヘン)

人は危機的状況になるとパニックになるというのが一般的な常識となっています。

しかし、実際にはパニックを起こすことは少なくかえって非常に危険になるまで何の行動も起こさない方が多いようです。

2003年に韓国の大邱市で起きた地下鉄放火事件で190人もの人が死亡したのですが、この時には火がついて煙が充満してきても座席に座り続ける乗客がほとんどでした。

乗客が撮影した写真も残っていますが、煙が充満してきた車内でそのまま座り続ける人々の姿は不気味です。

 

新井紀子さんが書いた「AI vs.教科書が読めない子どもたち」というのも興味深い内容です。

この本はAIの話というよりは、読解力の方を扱ったものですが、そこに紹介されているエピソードは衝撃的なものです。

著者の新井さんは「東大入試合格を目指したAIの開発」というプロジェクトに関わっていたのですが、MARCHレベルの偏差値までは行くものの東大入試の突破というものがなかなか達成できなかったそうです。
その原因を探っていくと、AIは「読解力」が身につかないからだということが分かってきました。

ところが、現在の高校生の読解力を調査していくと驚愕の実態が分かってきました。

日本の中高生の多くは詰め込み教育の成果で表層的な知識は豊富かもしれないが、歴史や理科の教科書程度の文章も正確には理解できていない。

ということです。

実は、「AIに奪われる仕事」というのは「読解力が要らない仕事」であるわけなのですが、「読解力が無い人々」ができる仕事というのもそういった仕事なわけです。

つまり、「AIに仕事を奪われた人びと」はそれに代わる仕事を探すことはできないということになります。

これはこれからの教育の課題です。

もはや詰め込み教育で知識だけを持たせる教育は意味がなくなります。

「探求学習」を主にしていかなければなりません。

しかし、日本の教育はそのような必要性をまったく理解できていないようです。

 

さすがに竹内さん、的確な「科学の名著」を紹介していました。