あちこちで水害が起き、その被害が拡大していますがそんな中で「ハザードマップ」に触れる機会も多くなっているようです。
しかし、その「ハザードマップ」、活かしていくどころかどう見れば良いのかすらあまり知られていないのではないでしょうか。
東日本大震災の時にも津波のハザードマップというものはあったはずですが、逆に自分のところは大丈夫と思って避難せずに被災したという例もありました。
ハザードマップというものがまともに考えられるようになったというのも、それほど古い話ではなく、1995年の阪神淡路大震災の時には専門家は誰もがあそこに断層があり地震の危険性があることを知っているのに、住民は誰もそれを知ることもなかった状態でした。
それでは困るということで情報公開を進めたというのがハザードマップ作製につながっていきました。
以前は、「不安を煽るのは良くない」とか「危険と書かれると地価が下がる」などといった理屈がまかり通っていたのですが、さすがにそういう時代ではなくなりました。
しかし、ハザードマップは各自治体で作成され配布されるということで、どう作るかということも決まっているわけではなく、使えるかどうかも差があるようです。
行政の防災工事のための資料としての災害情報は昔から持っていたものの、それを住民にどうやって伝えるかということはおろそかにされてきました。
そのため、丁寧な配慮が必要な地図の書き方にも穴があるようです。
受け取る住民側にも大きな問題があります。
かつては高校教育で地理は必修科目でした。
しかし1989年の学習指導要領改訂以来、日本史と地理が選択科目となったため地理を選ぶ生徒が減少してしまいました。
そのため、地図を読むという能力もつかないまま大人になり、ハザードマップを見せられてもそこから災害状況を読み取るということが難しくなっているようです。
津波ハザードマップを作る場合も、歴史上襲われた津波の最大到達点を記しておけばよいということではありません。
それをしてしまうと、住民全戸に配布しても自分の家はどうかということだけを見て、大丈夫なら「津波のことは考えなくてよい」という反応になってしまいます。
東日本大震災の前のハザードマップでは、宮城や福島のものはあまり大きな津波は想定できていませんでした。
それは、知られている歴史ではそれほど高い津波は来なかったというだけであり、それが来てしまえばはるかに越えるところまで津波が到達しました。
2013年に伊豆大島で非常に強い豪雨が発生し、土砂崩れが起きて多くの人が亡くなりました。
実は伊豆大島は繰り返し火山爆発が発生していたため、「火山防災マップ」は力が入れられていました。
しかし大雨による土砂災害は想定が甘かったようです。
これも、ハザードマップが完備されているとは考えずに、土砂災害がどこで起きたかという歴史的事実を忘れてはいけないということです。
地震ハザードマップで考えるべきことは、地盤の状況と活断層の位置です。
現在の建築基準では相当な耐震性が得られるように定められていますが、同じ地震であっても地盤が強固なところと軟弱なところでは揺れ方に大差があり、それをはっきりと示す地図が参考になります。
ただし、いくら耐震性がある建物であっても、活断層の真上にあって地面が大きくずれた場合には被害が避けられません。
地震直後に断層が現れることがありますが、数mもずれてしまえばちょうどその上に建物などが乗っていればいくら耐震性が強くても破壊されます。
したがって、正確な活断層の位置が表示されているマップが必要となります。
現行のハザードマップでは、住民側が活用しにくいという原因も見られます。
地震、津波、洪水などいろいろな災害がありますが、1枚のマップで把握できれば便利なのですがそうはなっていません。
縦割り行政の弊害がそのまま表れている場合もあります。
また、洪水ハザードマップの場合、「河川ごと」に作られていることも多かったようです。
これでは二つの川に挟まれた地域などでは住民は両方のマップを見比べなければなりません。
一つの川のハザードマップだけを見せられてすべての洪水に対して自家は大丈夫と誤解した住民もありました。
また、ハザードマップの更新ということがほとんど行われていません。
地域の状況は刻々と変わっているのですが、それをきちんと評価するという手間がかけられないようです。
いつもエラそうなことを言っていますが、私もこの前の球磨川水害の時にはあちこちで堤防を水が越えているという映像をニュースで見ながら、ハザードマップを取り出して自分の家の最大浸水深さを調べてしまいました。
実際に堤防が切れていたらとても間に合わなかったと反省です。