また貰い物の雑誌「地理」の8月号です。
この号の特集は「◯◯マップを読む・活かす」と題し、6編の記事。
その他に「1967年の神戸土石流災害から50年」「学術用語と教育用語どうちがう?」、「鳥の目で地形や風景を見てみよう」といった記事が並んでいます。
特集記事ではやはり災害関係が話題にのぼりやすいようです。
2016年の台風10号による豪雨災害は東北・北海道に甚大な被害をもたらしました。
これについて、駒沢大学講師の平井史生さんは細かい地形図と気象情報から解析し、特に豪雨になりやすい場所で被害が出ていることを明らかにしています。
なお、平井さんは他にも糸魚川の大火災、熊本地震、東日本大震災の時の首都圏液状化被害についても論じています。
群馬大准教授の青山雅史さんは、地震による液状化被害を読み取るために旧版の地形図を読み取るというアイデアを紹介しています。
現在の地形図だけでは分からないようなその場所の履歴というものが、旧版の地形図を見ることで分かるため、液状化の発生が予測できるのではということです。
静岡大学教授の牛山素行さんは長年ハザードマップの開発と普及に関わってこられた経歴から、整備は進んだもののまだ一般に広く普及しているとは言えないハザードマップの今後について書かれています。
1980年代のハザードマップ黎明期には、「このまま公表すれば国民に不安を増すだけ」として公表されないといった事例も多かったそうですが、ようやくその段階は過ぎたものの、まだまだ一般にまでその意味が浸透すると言うところまでは行かないようです。
東日本大震災では「想定外」という言葉が多く流ましたが、実は多くの災害ではほとんどの犠牲者は「ハザードマップで示される危険箇所付近」で遭難しているそうです。
言ってみれば「想定の範囲内」で被害にあっているわけで、ハザードマップの理解が進めば防げたものかもしれません。
琉球大学准教授の尾方隆幸さんが書かれている「学術用語と教育用語」という記事はなかなか興味深いものでした。
地球惑星科学といった、複数領域にまたがる分野では、専門用語などの術語の食い違いと言うものが頻発し、時には学術的議論が噛み合わない事態も発生します。
これが、どうやら中学高校などの教育現場にも原因がありそうです。
この分野では、まず教科書会社による教科書の中での不統一というものがあります。
例えば、会社によって「プレート内地震」と「直下型地震」が同じ事例に対して使われていることがあります。
さらに、「地学」と「地理」の分野による名称不統一もあります。
同じ事象が異なる用語で説明されていたり、逆に異なる事象が同じ用語で説明されている例があります。
その上に、中高生の教育現場で使われている言葉が、大学以上の学術分野で使われている言葉と異なる例も頻発しています。
そのような教育を受けた高校生が大学で地球科学系へ進学した場合、いきなり違う用語に接して混乱することがあります。
この記事は連載で続いていくそうです。なかなか興味深い話です。
この本には地理学の最先端の研究者の方々の記事が多く、読み応えがあるものでした。