「江ノ電」は神奈川県の藤沢市から鎌倉市までをつなぐ鉄道で、延長わずか10kmの小さな鉄道です。
しかし、そのファンは非常に多く湘南の海を背景に走る姿に魅かれています。
そんな江ノ電について、以前社長をされていた深谷さんがその背景や魅力、また問題点などを書き綴っています。
深谷さんは最初は小田急電鉄に勤務し、保線や鉄道工事関係の仕事をしてきました。
その後そういった経歴をかわれて江ノ電の社長に招聘されたそうです。
社長就任後は毎年年末に全線10kmを歩いて視察するということを実施していました。
部下の報告を本社で受けるだけでは鉄道の実態に目が行き届かないからという理由です。
本書の最初もその事例から始まります。
江ノ電はその誕生の経緯もあり、沿線の民家と非常に近い間隔で走行しています。
そのため、民家の状況などで走行状態に影響を受けることもあり、それにも目を配らなければいけません。
植木や竹藪など、伸びすぎて電車に接触しそうになることもしばしばで、これに対処する必要があります。
また、周辺の道路の状況も刻々変化しておりそれが線路に影響することも多いようです。
こう言った点は、日々の線路点検だけではなかなか見えないこともあるようです。
江ノ電に入社する社員は、かなりの割合で「江ノ電ファン」であることが多いようです。
ただし、「江ノ電マニア」であるだけでは鉄道員としては不足で、やはり「プロ」としての心構えがなければいけません。
マニュアルというものが必ず備えられていますが、それだけを守るのでは足らずやはり鉄道への愛情を持ちマニュアルを越えることが必要なようです。
江ノ電は他の鉄道と比べてもあまり変化がないようには見えますが、それでも徐々に変わってきています。
他の鉄道とも共通に使えるようなICカードを使えるようにするという対策も済ませていますが、利用者にとっては非常に便利なこのカードも事業者にとっては大変なことであるようです。
各社のカード、首都圏でいえばスイカやパスモが共通で使えるわけですが、そのためにすべての駅の改札には共通のプログラムが入れてあります。
ところが、どこかの鉄道の駅名が変わったということが発生すると、それに対応してプログラムの変更が必要となるそうです。
この費用負担はどこでも自社負担となるため、小さな会社ではかなり大きな重荷となります。
昔であれば駅の切符売り場の案内板を書き換える程度だったのですが、馬鹿にならない費用が掛かるようです。
私もかつては藤沢に住んでいたことがありますので、江ノ電は身近な存在でした。
ずっと変わらないかのようなあの姿も徐々には変わっていくのでしょうか。
人気がある理由はよくわかりますが、それだけでは済まないのでしょう。