角田さんは地震の研究を続け埼玉大学名誉教授までなった人ですが、現在の主流のプレートテクトニクス理論では地震や火山噴火の真相はつかめないと考え、「熱移送理論」を提唱しています。
藤さんは、経産省の官僚だったのですが、角田さんの理論に傾倒しその普及を目指しているようです。
プレートテクトニクスは地表面近くのプレートという岩盤の移動を扱うものですが、そのさらに下部のマントル層でも熱の塊が移動するというプルームテクトニクス理論というものが徐々に形成されつつあります。
実は、プレートの移動もこのようなプルームの移動によるものだということですが、その関係はまだ解明されているとは言えません。
角田さんの理論は、その関係を飛び越え、熱移送が地表の地震や火山噴火とも直接関係しているというもので、いまだ学会の同意を集めているとは言えません。
いわば、「トンデモ理論」扱いかと思います。
しかし、この前の熊本地震では従来の地震理論ではなかなか説明しがたいような「前震の後により大きな本震が起きる」「余震が数多く、大きいものが多い」といった現象が起きました。
これも、プレートテクトニクス理論では説明できないと考えた藤さんは角田さんの理論に正統性があると考えその説明を深く聞くことになります。
プレート理論による地震や火山の説明というものは、プレートの動き(これは実証されています)と隣接するプレート間の関係により説明されますが、内陸の断層地震はすっきりとした説明は難しく、予知もできません。
また、長野県松代でかつて起きた群発地震や、中国の四川地震などはやはりプレート理論では説明できないとされています。
これに今回の熊本地震を加え、これらを説明するのは「熱移送」理論であるとしたものです。
本書もその理論の説明、およびそれを使って今後の地震発生の予測などを扱っています。
ただし、「それらはプレートテクトニクスでは説明できない」という意味が理解できません。
プレートの移動は検出されており、それが隣接するプレートの下に潜り込んだり、同位置でぶつかり合って上昇したりという動きは理論そのままの現象であろうと考えられます。
また、プレート先端の地震とは違いプレート内部の内陸地震は複雑な動きをするというのも当然であり、さらに熊本地震は二つの断層が角度を変えて接しているという特異な構造であるために難しい動きをするということも理論の範囲内かと思います。
プレートテクトニクスもまだ歴史の浅い理論であり、これから充実させていかなければならないものですが、その方向性を放棄し突飛な理論を提唱するというのはどうでしょうか。
プルームテクトニクス理論の発展の妨げにもなりかねないかと感じました。