★「きれいな」エタノール液の製法
まああまり詳しく書いても誰も理解できないかもしれないので、適当な程度にしておきます。
もともとの発酵液中には、エタノールが一番多いものの他の成分もたくさん含まれています。
それらが水も含めて混合物となっています。
これを蒸留するとその蒸発しやすさの程度の違いで別の割合の混合物となります。
それを取り出してから冷却するとその割合の液体となります。
こういった操作を何段もの連続した多段式蒸留装置で行っていくわけですが、するとバランスの取れた物質分布を示すようになります。
まああまり分かり易い図ではありませんが、その物質の沸点により各段での分布が違ってきてしまいます。
実際の物質を表したものではありませんが、黄色の物質は下から4段目、緑はその3段上、青は上から3段目、赤は青とほぼ同じだが分布の幅が広いといったようになります。
ここで、もし「赤物質」がエタノールだとすると、他の青、緑、黄の物質を除くと純度が上がることになります。
そのためには、「赤」が少なく他の色が多い場所でその液を除いてやればよいことになります。
これをするために、各段には液の抜き出しバルブが付いており、黄色や緑色の物質を除くためには下から4段目と7段目のバルブを少し開けてやってその液を抜き出せば全体としてそれらの物質が少なくなるわけです。
(あくまでも簡略化した説明です。急激にやるとバランスが崩れてしまいます)
この原理を使っているのが、こういった連続式蒸留機システムでは広く普及しているスーパーアロスパス式蒸留機です。
(日本醸造協会誌 66巻8号、協和発酵㈱木下敏昭氏の論文より)
この円筒形のものが多段式連続蒸留機、そしてそこから矢印で出ているのが蒸気や液体の導入および抜き出しを示します。
装置全体の左上「もろみ」とあるのが発酵原液、それが濃縮塔、もろみ塔で粗製アルコール液となり、右側の「第1抽出塔」以下の精製装置によって純度を上げ、右下の「製品」という高純度エタノール液として流出してくるわけです。
このエタノール純度は非常に高いもので、水はどうしても含まれますが(約4%)それ以外の成分は数ppm以下に抑えられます。
なお、最近某S社から「99.99」なるチューハイが発売されていますが、これも使用するウォッカ(と言っていますが同じアルコールです)の純度が99.99%で素晴らしいと言っているようですが、それでしたら各社どこでも製造できます。
★「酒類」アルコールと「工業用」アルコール
ここからは、技術的な問題ではなく日本の抱える政治的な問題になります。
酒類には日本では非常に高率の酒税がかけられています。
例えば、今回発売された高濃度のスピリッツにはアルコール77度の場合、1kL(1000L)あたり77万円の酒税額です。つまり1Lにすれば770円は酒税がかけられます。
そのため、酒類の取り扱いには多くの制限があります。
国税庁が注視しているのもアルコールが酒税を納めることなく流通することです。
そのため、「酒類以外」のアルコールにも多くの制限を掛けています。
その大きなものがいわゆる「工業用アルコール」で、これには蒸留で作られた高純度エチルアルコール液にわざわざ「変性剤」と呼ばれる薬品を加え、飲用されないようにするということが行われています。
これを「変性アルコール」と呼ぶこともあります。
変性剤としては、絶対に飲用できないようにわざわざ高毒性のメタノールなどを加えることもあるそうです。
つまり、アルコール純度としては「酒類用アルコール」の方が「消毒用アルコール」よりはるかに高い、すなわち純粋アルコールに近いということになります。
(ようやく主題に戻った)
今回も酒類として販売される高濃度スピリッツには酒税がかけられていますが、それを消毒用に使おうがどうしようが買ったものの勝手だろうと思います。
しかし、国税庁(財務省)側は自分たちのコントロールから外れることを嫌いますので、「非常時なので特例として認める」などとエラそうなことを言うわけです。
なお、酒類アルコール製造会社が自分のところで変性剤を入れて変性アルコールを作れば大量に製造できそうなものですが、これも「原料から」コントロールしている税務署の許可が下りるはずもなく、現状ではできないことでしょう。
ニュースで専業以外の酒造メーカーが作った高濃度アルコール液(スピリッツ)を病院などに贈ったという話が流れていますが、やれやれ、面倒なことだとため息が出ます。
(ひとまずこれで終了)