内科医にしてブログで医学に関する情報をあれこれ書かれているNATROMさんですが、さすがに最近はお忙しいようで記事更新がしばらく途絶えていました。
今回はジャーナリストの佐藤章さんというかたが、論座というところに書いた「私はこうしてコロナの抗体を獲得した」という記事について、評論しています。
佐藤さんは、発熱から始まった体調異変について、「かかりつけ医」以外に某クリニックで抗体検査も受けています。
さらに、PCR検査も受けていますがこれには長々と保健所に家人が交渉してもだめで、かかりつけ医から申請しようやく受けることができたようです。
その顛末について、事情が細かく説明されていますが、それに対してNATROMさんが適切な点、問題点などを解説しています。
佐藤氏はまず、3月29日に高熱、その後微熱が続きました。
すぐにはPCR検査が受けられないということは知っていたので、クリニックで抗体検査を受けました。
これが4月1日、IgM抗体検査のイムノクロマト法による検査キットで、検査費用は保険適用がなく5500円。
結果は陰性。
4月2日に再び38度近くの高熱となり、かかりつけ医を受診。
その後も微熱が続きさらに味覚障害も自覚。
ようやく4月8日になってかかりつけ医からの申請でPCR検査が受けられることになった。
4月13日にPCR検査では陰性と判断された。
その後症状は落ち着いたが、「ウイルスの正体を掴むため」に先のクリニックで4月21日再び抗体検査を受けた。
今度はIgG抗体検査。するとそれで陽性の判定が。
つまり、IgM抗体検査でもPCRでも陰性だったが、実は感染しており、すでに抗体が生成されているということだった。
そこで、クリニックの医師は「おめでとうございます。コロナウイルスを乗り越えられました」と語った。
以上のような経緯で佐藤氏は「めでたく」コロナウイルスの抗体を獲得したということです。
NATROMさんが問題視しているのは、こういった抗体検査の妥当性がまだまったく確定されていないことです。
最初に受けたIgM検査は感染初期には陽性であってもほとんど検出できないとか。
次のIgG検査も陰性であっても陽性と判定する「疑陽性」の例がかなりの頻度で発生しているそうです。
さらに、もし本当にコロナウイルスの抗体ができていたとしても、それで十分な免疫が獲得できるのかどうかも検証されていません。
インフルエンザではそうであっても、例えば慢性C型肝炎ウイルスの場合は抗体を作っていてもウイルス排除はできないことが知られています。
コロナウイルスがどういった性質なのかまだ分かっていません。
さらに、IgMとIgG検査をなぜ同時にしなかったのか。
そして、まだ研究段階でしかない抗体検査を患者の全額負担でするということにも疑問を持つとしています。
なお、抗体検査に関するもの以外の佐藤氏の行動については、おおむね妥当なもので参考にすべきは、「保健所にPCR検査を受けさせろと電話はしない」「かかりつけ医に受診する際も電話で相談してから」というところだそうです。
重症化することは少なくても、感染する危険性は誰にでもかなり多くなってきたようです。
もしもの時、どうするのか。参考にしたいものです。