爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

エチルアルコール(エタノール)「消毒用」と「酒類」の違いとは (緊急連載)

消毒用のエタノールの需要が急増し、供給が間に合わないということで「酒類」である高濃度エタノールを消毒用が必要な人々に(医療機関など)販売するということが容認され、出回っています。

 

しかし、その実態が良く分っていないようで、テレビ報道でも「医学の」専門家のお医者さんが「お酒には他の成分も入っているので」などと話していました。

 

私も色々なことを知ったかぶりをして書いていますが、アルコール製造については長年仕事をしてきましたので、きちんと書いておきます。

 

エタノールの製造方法

 発酵法と合成法があり、発酵法では植物由来の糖質を主に酵母で発酵させて作り出します。

一方、合成法ではエチレンを原料として化学的に製造します。

石油由来のエチレンから製造するものはかつてはかなりの量だったのですが、石油危機以降は原料価格が上昇しシェアは減っています。

現在では各国とも安い糖質原料からの発酵法が主となっています。

なお、日本では酒類用(飲料用)には発酵法のものしか使用できません。

合成法は工業原料として使われています。

 

★発酵での不純物生成

 酵母は生命現象として糖を分解し副産物としてエタノールなどを作り出します。

その過程で他の物質も多く作りますので、どうしてもメタノール高級アルコールエステル、脂肪酸など多くの物質を作ります。

主成分はエタノールですが、こういった不純物(人間の勝手な言い方ですが)が含まれるのは仕方ないところです。

しかし、発酵液そのままを飲む醸造酒(日本酒やビール・ワインなど)ではそのまま飲むわけですが、こういった不純物がかえって複雑な香味となり嗜好品として優れた性質となります。

上記のテレビでのお医者さんの発言「酒にはいろいろな成分が入っている」というのはこれを指します。

 

★スピリッツ(高純度エタノール酒)

 高いアルコール濃度の酒が飲みたいという人間の欲求は昔から様々な製法を生み出してきました。

その主たるものが「蒸留」です。

水とエタノールの混合物を火にかけて蒸発させると、どんどんと蒸気に変わります。

「共沸」という現象ですが、元ある液体のアルコール成分と気体となって蒸発するアルコール成分では、その濃度に差が出ます。

お酒などの発酵液はアルコール濃度がせいぜい10%ちょっとですが、それを火にかけて蒸発してくる部分は最初はアルコール濃度がかなり高いものです。

 このアルコール濃度の高いところばかりを集めれば高濃度アルコール液となります。

 

★単蒸留と連続蒸留

 蒸留すればアルコール濃度が高い液を得られるのですが、それではほとんどのアルコールが残ったままです。

しかし、できるだけアルコールを回収しようとするとどんどんと濃度は下がっていきます。

その兼ね合いで蒸留分側のアルコール濃度を決めなければならないのですが、1回の蒸留ではかなり高い濃度にしたくてもせいぜい40度程度でしょうか。

しかし、それで得られた40度のアルコール溶液をさらに蒸留すれば、かなり高い濃度のものが得られます。

これが複蒸留の原理ですが、その回数を非常に高めていくのが「連続蒸留装置」です。

これは蒸発と復水を行う装置を段にして重ね、その一段ごとにアルコール濃度を高めていくというものです。

実際には数十段の多段式になっており、下部から蒸気を入れ上部から原料となる低濃度アルコール液を供給します。

それが段ごとに蒸発と復水を繰り返すことで上部では高アルコール溶液となり、最高濃度95.8%のアルコール水溶液を取り出すことができます。

 

(まだ続く)