本書編者でもある新井紀子さんの本はなかなか興味深く衝撃的な内容でした。
sohujojo.hatenablog.comそこで扱われていた「東大入学ロボット」のプロジェクトと「全国読解力調査」プロジェクトの、詳細な技術的背景を説明したのが本書です。
その内容はかなり専門的なものであり、一般の人は上記の本を読んだ方が分かりやすいでしょう。
しかしAIというものはかなり急速な進歩をしておりその能力もとんでもないものになっているかのように言われていますが、現実には「大学入試の傾向を分析」、「その対策のために行う方策の選定」などはすべて携わった研究者たちが行っており、「もうAIが自動的に対処している」などと言うことは全くないということがかえって意外なほどです。
入試科目のうち、英語、国語、世界史、数学、物理についてプロジェクトを実際に担当した研究者たちがその項目を執筆しており、その内容も専門的で詳細です。
「なぜダメだったか」という分析も詳しく行われており、大いに参考になるところです。
リーディングスキルテスト(RST)の解説は東ロボプロジェクトの報告ほどは詳細ではなく、「詳しくは論文等の情報を参照してくれ」というのは少し残念でした。
私自身の興味の対象はそちらの方が強かったのですが、やはり元情報の論文などを当たるしかないのでしょう。
上記本の記述とも重なりますが、読解力というのは6つの要素と考えています。
1係り受け認識、2照応対応、3同義文判定、4推論、5イメージ同定、6具体的認識
なのですが、1・2についてはすでにAIでもかなりの高精度で問題が解けるまでになっています。
3は「言い換え」「含意関係認識」などと呼ばれてもう30年以上研究されているということですが、まだなかなかAIでは精度が上がってきていないようです。
それに対し、4から6は現状のAIでは解決の見通しはなく、不連続かつ劇的なイノベーションがない限り無理だとか。
そして、問題はその4-6だけでなく3以前も読み取ることのできない人間が多いことです。
AIがのさばってくる時代になっても4-6の読解力を抑えていれば何の心配もないのですが、3以前がダメというのではAIに簡単に代わられてしまいます。
人とAIの協業社会というものに向けて、人の読解力不足をどうするかということは重要です。
なかなか奥の深いものがある分野のようです。
考えて見る必要があるでしょう。