爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「教科書には書かれていない江戸時代」山本博文著

著者の山本さんは歴史学者で、東京大学史料編纂所の教授ですが、長年にわたり東京書籍という教科書会社の中学社会科教科書編纂に関わってきたそうです。

教科書というものの性格上、歴史の話題でも学会でほぼ確定したことしか書けず、またあまり細部にまで筆を進めるわけにも行かず、少々不満に感じていたので、教科書には書けなかった部分を思い切り書いてしまいましたという、そういった性格の本になっています。

 

そんなわけで、書かれている内容は、

「武士の切腹の実態」とか「参勤交代の実際」とか、「幕末のある旗本の一生」といった、学校の生徒はそこまで知らなくても良いだろうが、面白い話を取り上げています。

 

武士の切腹というものは、戦国時代にも戦に敗れた者が自殺する場合に行われていましたが、江戸時代という戦乱もない時代にこれだけ多くの自殺者が出たというのも世界的にも珍しい話かもしれません。

なにか問題が生じた場合に責任者が切腹するということが頻繁に発生しましたが、それはその事態に対する責任を取ってというだけでなく、その担当者としての真心を示すという意味が強かったようです。

とはいえ、以前読んだ別の本に書かれていたように、この習慣のためにかえって日本に無責任体制が広がってしまったとも言えるでしょう。

 

参勤交代という制度は、幕府の大名統制策としてできたのでしょうが、これが実は江戸時代という時代の性格を決めたとも言えるほどの意味があったようです。

1年毎に領国と江戸を往復し、藩士も相当数が随行することで、江戸文化と地方との交流も進みました。

その費用も多額であったと言われますが、松江藩の場合で参勤交代の道中の費用は約4000両という記録が残っており、藩財政の総額から見ると約3%と意外に少ないそうです。

しかし、その後の江戸での駐在費用が多額であり、道中費の10倍以上、藩財政の30%以上がそれに費やされたとか。

 

旗本の一生という項では、戸川伊豆守安愛(やすなる)という人物が取り上げられています。

幕府大番頭という身分の旗本で、家禄3000石という上級武士ですが、江戸時代でも安定期であれば形だけの役職に就きのんびりと暮らせたのでしょうが、幕末に出仕していた安愛は大変な一生を送ることになりました。

14代将軍家茂に28歳の時に使え始めた彼は小納戸役となり、将軍側近となります。

家茂は京都の天皇との会談も強いられるということで、江戸と京都との往復も多く、安愛もそれに随行しています。

さらに、将軍からの命令であちこちに使者として遣わされたり、江戸の大老から急ぎ戻るようにとの命令が来たりと、早馬に乗ってあちこちを駆け回るという仕事ぶりでした。

家茂死後も、通常ならば自分も引退するところを、次代将軍慶喜に使われ、さらに明治になっても政府から召し出されて官職につくという、休みのない人生を送り52歳で亡くなっています。

 

江戸時代をよく見ていくと、それがそのまま現代まで続いているということが多いことが分かります。

それは戦国時代までとはかなり異なるもので、日本という社会の性格はその時代に形成された部分が多いということなのでしょう。

 

教科書には書かれていない江戸時代

教科書には書かれていない江戸時代