「伝奇小説」とは、少々不思議な感を抱かされるような状況を描かれるものということで、現代でも書かれることがあるのですが、実は中国の唐宋の時代に大きく発展した様式のようです。
その前の時代の六朝時代には「六朝志怪」と呼ばれる小説の形式が流行しました。
これは「怪」と言われるように奇怪な話を描くというものでしたが、唐宋時代に入るとそのような怪は扱わずに少し不思議といった程度のものが好まれるようになります。
その作者も多いのですが、この本の中にも載っている李桂(本当は女偏で読みは「あ」)伝の作者、白行簡は、あの白居易の弟ということです。
謝小我伝という作品で扱われているのは、商人の父と夫が、商旅行中に盗賊に襲われて殺され、一人残った主人公が敵討ちをやり遂げるのですが、犯人を探す手がかりとなるのが、夢に父と夫とが表れて「わしを殺したのは、車中の猿、門東の草だ」などと告げ、その謎を解いて犯人を突き止めるというもので、その部分が伝奇となっています。
中国ではすでにその当時に現代に通じる人生の機微や、人と人とのやり取りなどがあったということが見られ、文化というものを感じさせられます。