笑顔を見せることで社会の緊張をほぐすことにつながります。
それを意識的に見せることも、無意識で見せることもあります。
赤ちゃんも笑いますが、それも無意識ではないかもしれません。
笑顔というものについて、様々な方向から科学的に解析しているのは、心理学およびジェンダーについて研究しているイェール大学教授の著者です。
19世紀のフランスの生理学者、デュシェンヌ・ドゥ・ブーローニュは、笑顔の種類を研究し、口角が上がり頬が持ち上がることが組み合わされたものと、口角を引くことだけで作られるものとがあることを見出しました。
前者は心の底からの笑顔であり、後者は意志に従うものと考えました。前者が「デュシェンヌ・スマイル」後者は「非デュシェンヌ・スマイル」と呼ばれています。
しかし、実際の笑顔と言うものはもっと複雑なものであり、怒りの笑顔、悲しみの笑顔、抑えた笑顔、懸念の笑顔等々、少しずつ顔の動かし方が違い、そしてそれを見る側もその判別ができるようです。
つまり、いろいろな笑顔を見分けるような文化と言うものが存在するということです。
赤ちゃんも母親が笑顔を見せるとお返しに笑うということがあります。
生後3ヶ月ほどまでには、明らかにそれを意識して行っているようです。
しかも、赤ちゃんの笑顔にも種類があり、使い分けをしているということが分かります。
それを見ている大人はその笑顔に引っかかっているのかもしれません。
大人の社会でも自然に見える笑顔を作ることができるかどうかという能力は、その人の希望の達成にもつながります。
華麗なるギャツビーという映画のモデルとなった、ジェームズ・ギャッツと言う青年はその笑顔で微笑みかけるとすべての人を虜にしてしまいました。
そこまで行かなくても、普通の人でも笑顔の魅力のある人は幸せな人生を送ると言えそうです。
社会心理学者のケルトナーの研究では、女子大学の卒業アルバムの写真で女性の表情を分析し、笑顔の強度を測定しました。
すると、その後の人生の各時点での満足度は笑顔が強い(より魅力的な笑顔を見せる)人ほど高かったと言うことです。
社会の中では、笑顔を作ることが必須とされているような職業もあります。
ご機嫌取りの笑顔と呼ばれる、作為的な笑顔です。
かつての寝台列車のポーターは必ず笑顔を作ることが強制されていました。
その職業の系譜は、今でも続いており、ウェイトレス、バーテンダー、看護師、その他のサービス業が含まれます。
もちろん、作為的でありながら自然に見えることが条件で、それをうまくこなせる人はその職業での成績がアップします。
アメリカ社会では、男性はあまり笑わない、女性は笑顔を絶やさないと言うのが固定観念としてあるために、上記の職業でも女性が多いものはその傾向が強いようです。
アメリカ大統領もかつては決して笑顔など見せるものではなかった時代もありました。
しかし、フランクリン・デラーノ・ルーズベルト以降、大統領が魅力的に笑顔を見せられるかどうかがその選挙の際の決め手となるようになってしまいました。
特に、テレビ時代となってからはそこに映る笑顔が大きな要素として選挙結果を左右しました。
ケネディとニクソンの討論会で、「テレビを見た人はケネディ、ラジオで聞いた人はニクソン」と言われたのはこのためだったようです。
笑顔は一種の文化であるということができますが、これは世界中のどこでも一緒とは限りません。
ヨーロッパ人に比べてアメリカ人は笑顔を頻繁に見せるようです。
そして、日本人の笑顔はアメリカ人から見ると不自然に見えると言うことが言われますが、これも文化の差から来るもののようです。
北ヨーロッパやロシアなどでは、知らない人にはほとんど笑顔は見せません。
アメリカ人は知らない人にも微笑みかけるようです。
このような表情の差というものは多数の写真の中からも選び出せるようで、これを研究した結果からは、自分の出身の地域から来た人をかなりの確度で選び出せるということが分かっています。
表情を見るポイントとして、日本人は目、アメリカ人は口元を重要視するそうです。
喜びの目と中立の口を持った表情を、日本人は喜びと判断したが、アメリカ人は感情をもたないと見たそうです。
逆に、目は冷静で口だけ微笑んでいると、アメリカ人は喜びと判断し、日本人は冷静と判断したそうです。
ロボットに笑顔を教え込むと言う技術もあるそうです。これにも笑顔の研究の成果が盛り込まれています。
今後も社会の潤滑油としての笑顔は続いていくのでしょう。
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