爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「脱衆愚国家日本 アメリカ型民主主義に潜む悪をえぐる」中西眞彦著

著者の中西氏は配管工業の中小企業の経営者として社業を拡大し、その後中小企業出身者としては初めて東京商工会議所の副会頭となり、さらに政府税調委員などを歴任されています。

まあ文句無しに有能な経営者であり「エラい」人なんでしょうが、だからと言ってどのようなことを書いているかとは関係ありません。読んでみての判断になります。

 

表題の現在の日本が「衆愚国家日本」であるという判断は誠に正常であり、上から下まで間違いなく衆愚の塊であるのはもちろんです。

その原因と対策を考えるというところが問題となりますが、本書ではどうでしょうか。

 

現代社会は政官業の癒着利権構造により病理的状況に陥り、大衆も政治家に利益誘導しか求めないという衆愚政治状態であると論じています。

そして、その原因は戦後アメリカにより導入されたアメリカ型民主主義であるとしています。

アメリカにおいてもこの自由と平等の民主主義は危機に瀕していると言えます。

国民に媚びへつらうだけの政治家が当選して権力を振るうという状態であり、高潔な理想を追う政治家は当選することすらできません。

日本もその後を追いつつあります。

 

アメリカ型民主主義の思想の源流を探るということも記述されています。

イギリスのピューリタン革命思想はホッブスによるものですが、そのピューリタンの一派がアメリカに流れてきて建国に至りました。建国の思想的父はジョン・ロックとなります。

ホッブス哲学の基礎には「人間論」の欠陥があるということです。

またジョン・ロックは人間は完全に自由であり、さらに平等であること。さらに労働をすることで財貨を稼ぐことができ、稼いだ金は完全に自分の物であるという思想を持っていたとしています。これがアメリカの民主主義の源流となっているということです。

 

このために、アメリカ型民主主義は人間至上主義というものを無制限に採用していますが、地球環境や資源など無制限ではないものの制限が現実となってきた現代ではこの人間至上主義という思い上がりが世界中を壊して行くと断じています。

 

これに対して、日本は地球システムと調和した人間圏というものを提唱しリードしていく事が必要です。

しかし、日本の政権はその理念である議院内閣制などは形だけのものとなり、もはや「官僚内閣制」としか言えない状態になっています。

自らの利権ばかりを考える官僚に政治をさせているようでは世界のリードなど夢の話となります。

議会制民主主義は大衆の利益誘導の選挙に毒された議員ばかりの巣となっていて実効的な政治はできません。

そこで、「日本型元老院」というものを提唱しています。古代ローマでは大衆の参加する市民集会とともに貴族が構成する元老院が力を持ち、牽制しあうことで正常に機能させることができました。

日本でも国民が選挙で選ぶ衆議院に対し、人格高潔で学識のあるものによる元老院を対峙させるという構想です。

 

また、高級官僚の人事権を内閣が実権として握ることも不可避としています。

 

 最後に西尾幹二氏との対談をして、その中で国家戦略を論じています。

そこで披露されているのは、「メタンハイドレート」と「リチウム電池を使い太陽光発電で発電蓄電」というものです。

2008年の本ですので、まだメタンハイドレートの魔術が効いていたのでしょうか。存在するのは事実ですがそれを効率的に採取・精製することが技術的に不可能であるということは知られていなかったのでしょうか。

さらに、太陽光発電の非効率性が蓄電池使用でさらに悪化し、エネルギー効率が実現性を持たないほど低いということも知られていなかったのでしょうか。

 

と言った内容で、現状が衆愚国家であるという認識だけは間違いないにしてもその解析以降はあまり見るべき所はないものであったと思います。