内田樹さんのブログ、「研究室」で、バーバラ・F・ウォルターと言う人の「アメリカは内戦に向かうのか」という本の紹介がされていました。
この著者のウォルターさんはアメリカの大学教授だということですが、その本では少し感情的になり過ぎているようだという評価です。
学術書で著者が感情的であるということは決して良いことではないのですが、この場合はあまりにも状況が危機的であるからということで、容認できるということです。
この本でももちろん世界の各国で内戦に至る状況を分析している部分は学術的で抑制的に書かれています。
その国が民主的か専制的かということを表わす「ポリティ・インデックス」という指標があり、+10からー10までの21段階で示し、ノルウェーやニュージーランドなどは完全な民主政体であり+10、-10は北朝鮮やサウジアラビアです。
+6から+10までは民主主義国家、-10からー6までは専制国家であり、-5から+5までの範囲の国が「アノクラシー」だということです。
アノクラシーとは「半民主主義」とか「部分的民主主義」とも言われますが、これが注目されるのは民主主義国家が崩れてアノクラシーの降下していく状態が極めて「内戦の危機」が高まるからです。
逆に専制国家の専制体制が崩れ民主化が進んでいる状況下でも内戦の危機が生まれます。
実は完全な専制国家では内戦も起きる可能性が無くなります。
これは北朝鮮の例を見れば分かります。
しかし半民主主義、部分的民主主義の場合にはかえって内戦に走る自由もあることになります。
イラク、シリア、イエメン、ミャンマーなどがこういった実例となっています。
逆の方向ではハンガリー、ブラジル、インドがそうでした。
そして、アメリカもそれに近づいているということです。
あのトランプが扇動した議会襲撃事件の後、アメリカのポリティ・インデックスは+7から+5に低下しました。
つまり、アノクラシー国家の境目に入り、すでに内戦の危険性が高まっているということです。
ウォルターによればやはり内戦の危機を高めているのはトランプであり、彼はアメリカ人の中の「種族」を意識させることで支持を固めてきました。
アイデンティティ・ポリティクスというそうです。
アイデンティティ・ポリティクスとは、ある政治家を支持するときの理由が、その政治家の掲げる政策の適否ではなく、自分と同じ「部族」に帰属しているかどうかを基準にする政治的行動のことを言う。
そして白人労働者層という支持層を強固に組織することで支持率を高めました。
それ以外の層の支持などは全く期待せず逆にそれを圧迫することで自らの支持層を喜ばせました。
内戦を起こす階層は、下層や貧困層ではなく、「かつては有力だったが零落した」階層だということです。
白人労働者層はかつてはそこそこの経済的地位を持っていたものがどんどんと低下していきました。
彼らは少しのきっかけで内戦まで起こしかねないというのがその危機感です。
ウォルターは本の最後で内戦を食い止めるためには「正しい政策が必要」としているそうですが、内田さんはそれには懐疑的です。
しかし、アメリカ人は何とかその危機を乗り越えるだろうとも書いています。
ただし、それができなければアメリカの地位は低落するとも。
どちらになるでしょうか。
なお、ついでですが、日本のポリティ・インデックスは「+10」だそうです。
それだけでもこの指標はかなり怪しいようにも思いますが。
それでも一応、「日本では内戦の危険性はほとんど無い」のは確かなようです。
ただし、「アメリカの没落」に備えておく必要は大きいのでしょう。