爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「代議制民主主義」待鳥聡史著

日本の政治の現状は民主主義などとは程遠く、抜本的改革が必要ではとかねてから感じていましたが、それではどうすれば良いのかと言われても何も分かりませんでした。

それを本書の内容を読んだうえで考えてみると、確かにおかしいのは事実ですが、それをどう変えてもまた別の問題点が持ち上がるのは間違いないことのようです。

 

本書序章に書かれている通り、現状は「目に余る惨状」であり、それに対する批判も数多く、特に「議会批判」ということが頻繁に行われています。

ならば議会など要らないのか、国民投票で決めていくことが良いのか、そうとばかりも言えないようです。

 

民主主義といっても古代ギリシャのように参政権を持つ市民が全員集まって討議するといった直接民主制など現代では取りようもありません。

やはり選挙で選んだ議員や首長に政治を任せる代議制民主制を取るしかないようです。

しかし「議会」と「民主主義」が結びつくというのは現代の常識のようですが、それほど確固とした関係ではないようです。

 

本書では、歴史から、課題から、制度から、読み解いていき、さらに将来を読み解くといった構成で説明されています。

 

君主の専制で行われていた政治に対し、力を付けてきた人々が議会というものを置きそれで君主制を制約しようという動きが近世のヨーロッパで始まりました。

初期の頃は制限選挙であり民主主義との直接の関係があるとは言えなかったのですが、徐々に庶民にも選挙権を広げていきます。

大統領制というものも独立したアメリカで成立し、大統領と議会を持つ体制が整備されていきます。

現代に至るまでこういった民主制が順調に成長してきたわけではなく、左右両方からの全体主義の挑戦、すなわちドイツや日本のファシズムソ連などの共産主義体制からの異議が唱えられたものの、戦争とその後の冷戦を通して民主主義の勝利となったようです。

 

代議制民主主義といっても世界各国の状況を見れば一つのものではなく多くの種類があることが判ります。

有権者、政治家、官僚という存在がどこにでもあるのですが、その間には委任と責任の連鎖と言うものがあります。

有権者が選挙によって選んだ政治家に委任し、さらに政治家は実際に政治を担当する官僚に委任します。

そしてその実施の状況を説明する責任が官僚から政治家、そして有権者へという流れで存在します。

この基本体制を実現するにはいくつもの形態があります。

 

代議制民主主義を把握するために必要な観点が2つあります。

「執政制度」と「選挙制度」というものです。

執政制度とは、政府を運営する上での責任者(執政長官)をどのように選任するか、そしてそれに固定的な任期を与えるかという種類があります。

基本的には大統領制と議院内閣制に分けられます。

議院内閣制における執政長官を普通は首相と呼びますが、大統領制でも首相と言う名称の存在を置く場合があり(韓国など)ますが、それは基本的には大統領制ということになります。

また、ドイツのように儀礼的な大統領を置くものもありますが、これは議院内閣制に属するものと見なせます。

選任方法として、有権者が直接選挙する場合と、有権者は議員を選挙で選びその議員が執政長官を選ぶ場合とがあります。

典型的な場合もあり折衷的な制度を取る国もあり様々です。

 

選挙制度では色々な制度が運用されていますが、議員を選ぶ制度の場合大きく分けて「小選挙区制」と「比例代表制」の2つがあります。

これら2つを組み合わせた形の制度が一般的ですが、比例制という性質が高いか低いかによって民主主義的要素も決まります。

比例性が高い、すなわち完全な比例代表制であれば有権者の政治的立場の分布をより直接的に議席に反映することになり、民主主義的要素が強まると言えるのですが、有権者の政治的立場の違いが幅広い場合には政治の運用が滞りがちとなり政治が動かなくなるという欠点にもなります。

小選挙区制では民主主義的要素が薄まりますが、大政党が安定的な政府を維持しやすく、政治の決定は速くなります。

 

これを「多数主義型」と「コンセンサス型」とも表すことができます。

多数主義型では議会で多数を占めた政党が政治を司り強力に進めることが可能となります。

コンセンサス型では多くの政党が共同して政府を作ることになるため、一つの政策を決めるにもその間の合意を得る必要があり、機動性は劣りますが説明と合意が通されることとなります。

 

実際の各国の政治形態はこれらの典型例そのものではなく中間型となっていますが、どちらよりかで政治の性格も決まってきます。

 

日本ではかつての衆議院中選挙区制から小選挙区比例代表並立制への改革を通して多数主義型に向かっての変革を行いました。

しかし、その際には参議院の改革や地方政治の改革といったことを置き去りとしたために矛盾があちこちに残ったままとなっています。

参議院選挙制度衆議院とは少し異なる性格のまま残されたために、衆参の勢力図が異なることもあり得るものとなったものの、衆議院の優位性をきちんと決めていないために、ねじれ国会といった構造も起きました。

また、地方政治では首長が選挙で選ばれ、一方では議会も選挙で選ばれるという並立制になっており、これは形の上では大統領制と同じことになります。

そのため、アメリカのような大統領と議会の対立ということが起きている日本の自治体もあります。

また一方では地方議会はほとんど機能していないところも多く、首長の政策を追認するだけの存在であるとことも多くなっています。

 

大陸ヨーロッパ、欧米日はその選挙制度や執政制度で大きく異なっていますが、そのどちらでも政治制度への批判というものが常に行われており、変革が求められています。

どうやら、日本の衆議院でも小選挙区制が悪いというだけでもないようで、それなら比例代表制にすれば良くなるのかと言えばそうでもないということのようです。

最良の制度というのはどうやら存在しないようです。

しかし、問題点があればそれを取り除いていくという努力は常にしていかなければならないものなのでしょう。