再読としましたが、本当は初めてです。
昨年4月にちょうど図書館から借りてきて、読もうとしていたら熊本地震が発生、余震が続きとても読書をできる状態ではなくなりました。
「地震がおさまったらまた読みたい」としていたのですが、すっかり忘れていて今になりました。
「これは誰の危機か、未来は誰のものか」スーザン・ジョージ著 - 爽風上々のブログ
長らくグローバリズムや富裕層の横暴、政治との癒着などを糾弾し続けているスーザン・ジョージが2010年に出版した本を翌年に日本語訳として発行されたのが本書です。
内容は貧困問題、格差問題などを引き起こしているグローバル金融機関の横暴、そしてそれが食糧や水の供給と言った人間の生存に関わる問題にまで脅威を与えつつある現状、さらに温暖化対策を利益追求のために骨抜きにし、災害発生の危険性を増しても振り向こうとしない経済界政界を厳しく糾弾しています。
ただし、他の本でも繰り返し言われていることが多くあまり新味を感じさせるものではありませんでした。
2010年という発行年を考えてももう一段踏み込んだ記述が欲しかったと感じました。
先進国ばかりでなく、その他の国も含め現在は「ダボス階級」という連中の意のままに動かされているそうです。
これは言うまでもなく「ダボス会議」から来ている言葉ですが、各国の支配層が集まって自分たちの利益を守る方策を協議するという場であり、そこに集まるような連中が代表しているのがダボス階級であるということです。
これは面白い言葉を覚えた。
サブプライムローン破綻からの全世界のシステム破綻についても触れられています。
サブプライムローンのような、債務担保金融商品と呼ばれるタイプのものが色々な形で金融市場を賑わせ、結局はバブルとなり潰れました。
プライムローンを組める富裕層だけでなく、サブプライムローンしか借りることのできない貧困層にまで住宅所有のアメリカンドリームを見させたのですが、その最盛期にはとんでもない商取引が横行したようです。
その破綻の後には、政府による金融機関救済の公的資金投入が相次ぎました。
「大きすぎて潰せない」ということが言い訳のようにされましたが、住宅を失い職を失った人たちは何の救済も受けられず潰れるだけでした。
現在は食糧を商取引の対象として使うことを当然のようにしていますが、それで食べられなくなる人のことは考えられていません。
「自由貿易」ということが最も尊ばれる言葉のようで、「保護主義」は忌み嫌われていますが、食糧や自然環境、そして自分の国を守る「保護」は当然なすべきことのはずです。これも食糧を貿易に使い利益を追求するグローバル企業により曲げられています。
さらに危険なのは、食糧以上に重要な「水資源」にもグローバル企業の魔の手が及んでいることです。
多くの地域ではまだ水道事業は公的機関により運営されていますが、これにも民間移管の動きがあります。そうなれば経済状況により水も絶たれる可能性もあります。
石油を奪い合っての戦争はこれまでも常に起きてきました。しかし戦争を避けるために石油依存を止めようという動きにはなりません。なぜ、太陽光のような光り輝くものに転換しないのでしょうか(とスーザン・ジョージは書いていますが、これは疑問です)
大企業が化石燃料依存の経済活動を止めようとせず、地球温暖化が進んで環境悪化から生存の危機を招くのも問題視しています。
そのため、地球温暖化懐疑派や否定派もすべて大企業の御用学者と著者は断じていますが、これはちょっと硬直化した思考のように見えます。
未来のためにやるべきこととして著者が挙げているのが、銀行をすぐに市民の管理下におくこと、税金を公正に課税すること、特に投機的取引に課税するトービン税を採用すること、タックスヘイブン対策を全世界で取り組むこと等々です。
まあ、お説ごもっともなんですが。
これは誰の危機か、未来は誰のものか――なぜ1%にも満たない富裕層が世界を支配するのか,
- 作者: スーザン・ジョージ,荒井雅子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/12/22
- メディア: 単行本
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