爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「無責任の連鎖 耐震偽装事件」産経新聞社会部取材班

耐震偽装事件」というものが大きく報道されていた時代からすでに10年以上経ちました。

 

姉歯」「ヒューザー」「木村建設」などという言葉が飛び交っていたのがつい最近のようにも思えます。

 

特に、当地は木村建設の本社があったところでもあり、その報道は興味をひくものでした。

(ただし、木村建設はほとんど熊本県内での建設はしておらず、特に八代市内では仕事ができなかったようで実害はあったという話はありませんでした)

 

この本はその事件がまだ大きく動いていた2006年に出版されたものです。

産経新聞があれこれと取材したものをまとめて本にしたものですが、どこまでが独自のものかは分かりません。

 

 

耐震偽装が発覚したのは2005年でした。

建設デベロッパーのヒューザーが建設したマンションやホテルの建物の構造計算が一級建築士姉歯秀次により偽装され、耐震性能が基準よりはるかに低いということが明らかになりました。

民間指定確認検査機関の「イーホームズ」がその情報を入手したのですが、それまでに何十件もの建物の建築確認を(まともな審査もせずに)通してしまっていました。

ヒューザー社長の小嶋進はそれが明らかになってもすぐには公表せずにマンションを売り続けていたことで後に問題を大きくします。

 

小嶋はその責任も取らないままに国交省に支援を要請、そこに政治家も絡めることでさらに問題を大きくしていきます。

その主張では「ヒューザーも被害者だ」ということを言っていたのですが、そうではないことはその後明らかになります。

 

11月17日に国交省で記者会見により発表、震度5で倒壊の恐れありということで世間では大きな衝撃となります。

その時点ではまだ20棟程度ということでしたが、その後その数も膨れ上がっていきます。

 

しかし、その発表でも国の責任というものは否定しておりあくまでも民間の不正というもののように表現していました。

 

その物件がどのマンションかということも最初ははっきりせず、居住者たちの不安が高まったのですが、徐々に明らかになっていきすでに数百戸の家族が居住していることがわかり、ヒューザーは補償を明言しますがその実態はまったくお粗末であったこともすぐに判明します。

さらに、ビジネスホテルも数多く手がけられており、中小の地方業者が建てた場合なども多かったことが分かりました。

 

マンション居住者などの、明日にでも地震が起きれば倒壊するという恐怖から、すぐにでも退去したいという希望が多かったのですが、それに対する費用補償も不可能であることが分かり、公的支援の可能性も論議されることとなります。

しかし、民間同士の事件とされてきたために公的支援には国も自治体も及び腰となり、ここも揉めることになります。

政治家の数々の「問題発言」が相次ぎ、それに対する世論の反発もあるものの、一方では私有財産の補償に税金を投入することに対する反発意見もあり、難航しますが、当時の国交大臣の公明党北側一雄が強力に支援案を主張し実現することとなりました。

 

ただし、ここでも救済されたのはマンション住民にとどまり、ビジネスホテル事業者には届かなかったそうです。

 

 

その後、政治家の関係なども問題視されたために国会での参考人質疑、証人喚問が行われ、この事件の構造が徐々に明らかになっていきます。

 

姉歯」の個人的犯罪に止めようという思惑とは異なり、実際はヒューザーが大きく関わっていたのですが、さらに建築コンサルタントであった「総合経営研究所」の内河健という人物がクローズアップされていきます。

実は内河が主導し、木村建設姉歯を巻き込んでいったのではないかという疑惑が大きくなっていきました。

木村建設はその後、総研のあまりにも過大なコンサル料要求を忌避して徐々に離れていき、ヒューザーと組んで建設業をすすめるという流れになったのですが、耐震設計軽視の元は総研にあったのかもしれません。

 

しかし、その後「偽メール事件」の発覚で民主党の追求が弱まるということになってしまいました。

本書の記述はここまでとなっています。

 

 

その後の顛末を調べた所、姉歯建築基準法違反で実刑判決、木村建設社長は詐欺罪で有罪ただし執行猶予、ヒューザー小嶋社長は詐欺罪で執行猶予判決、そしてイーホームズ社長は別件で有罪ということになりました。

 

大きな責任は中途半端な民営化推進でほとんど機能しない民間の建設確認を制度化した国にありそうですが、そちらにはまったく触れられておらず、また総合経営研究所の関与も明らかにされていないままだったようです。

 

被害者の方たちのその後はどうなったのか、気になるところではあります。

 

無責任の連鎖 耐震偽装事件 (産経新聞社の本)

無責任の連鎖 耐震偽装事件 (産経新聞社の本)