爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「日本流通史 小売業の近現代」満薗勇著

品物を動かして消費者に届けるということは近代以前にもあったことでしょうが、それが大きく発展したのが日本では明治以降の近現代でした。

それ以前は江戸や大坂といった都会には店舗があったかもしれませんが、地方では多くは行商によって運ばれていました。

それが明治以降になり全国に商店というものができてきます。

 

それは徐々に日本型流通とも言うべき形態を整えていくのですが、それも大型店の増加、Eコマースという新たな流通形態の広がりですっかり様変わりとなっていきます。

こういった日本の流通史について、大学の講義に使われることを意識して書かれたのが本書であり、各章の終わりには練習問題があったり、ところどころに細かい解説コーナーがあったりと、その特徴もありますが、まあ面白く読めました。

 

日本型流通というのは、卸売業が多段階に発達し、最終的な小売業は個人商店が多数で担当するというもので、経費はかかりますがきめ細かく対応できるとともに就業者数が多くなるというものです。

ただし、これはさほど古くから成立していたものではなく、せいぜい明治末から徐々に形を整え、昭和に最盛期を迎えました。

その特徴的な形態が商店街というものですが、これは早いものでは明治期から見られますが、昭和に入ってから各地にみられるようになり、戦争前後の混乱をこえて戦後も新しい時期になって最も栄えることとなりました。

しかしその直後にはあっという間に衰退期に入ってしまいました。

 

一般的な商品流通が個人商店を主とする販売形態を取り出した明治末には百貨店というものが急速に広がります。

アメリカなどの先行社会の実例を参考にしたのですが、それを開いた主体は江戸期から続く呉服商などが担っていました。(三越・大丸等)

そしてさらに電鉄系、地方百貨店というものも広がり出し、その頃にはまとまり出した個人商店の商店街からの圧力で百貨店を制限する方向も出てきます。

 

また一方では個人商店を保護育成する必要から行政の支援も受けて公設市場と呼ばれるものもできてきます。

この最も早いものは大阪で1918年に始まったもので、その後も関西では数多く開設されていきますが、東京ではやや動きが異なり、日用品関係の同業組合が公設市場開設反対の運動を繰り広げたためあまり広がらなかったようです。

 

戦時中の非常態勢の流通、終戦直後の闇市といった混乱が終わると経済復興から経済成長へと向かっていきます。

ここからが上記の日本型流通が最も整備され栄えた時代だったのですが、同時にその後の流通変革の兆しも見えてきます。

百貨店も復興し次々と大型店舗を開店しようとしますが、商店街の反対で第2次百貨店法を成立させ制限しようとします。

しかしその動きの隙を縫って、総合スーパーという新勢力が拡大していきます。

さらに食品に限って流通を変える食品スーパーも広がります。

そしてコンビニエンスストア、専門量販店、ショッピングセンターと最近の小売業を特徴づけるような動きが加速していきます。

ネット社会が広がるとEコマースという、いわゆるネット通販も拡大の一途となります。

これはコロナ禍で通常の流通が足踏みしたことでも加速されました。

ただし、ネット通販でも希少品、趣味品などで運賃も気にならないものはともかく、ネットスーパーと言われるような日常品もネット通販でという動きは、利用する人もいますが、とにかく輸送料がかかり運送業界も苦しくなるということもあり、さほどの伸びはこのままでは期待できないようです。

 

従来の商店街中心の日本型流通というものは衰退していっているのはいわゆるシャッター商店街というものが全国どこでも見られることを思えばよく分かることですが、その先がどの方向に向かうのか、まだまだ分からないことのようです。

 

商店街の買い物というものが一般的となる前は、「掛け売りと御用聞き」というのが普通でした。

商店から注文を聞く御用聞きという店員が家を訪れて注文されれば商品を届ける、その払いはその都度でなく月払い等という掛け売りというもので、部分的には遅くまで残りましたが、徐々に消えていったのは安い労働力が不足したからでもあります。

 

大型店化が進んだ背景にはもちろんモータリゼーションと情報化というものが必要でした。

その意味で、乗用車の普及と大型店の進出は密接に関わっていたのですが、乗用車普及は一般に印象を持たれるような高度経済成長期ではなく、その後1990年代に入ってからのようです。

高度経済成長期末期の1975年でも自家用車世帯普及率はまだ40%程度であり、その時点ではまだ自家用車で出かけるショッピングセンターというものもさほど増えてはいませんでした。

やはり誰もが自動車を使うようになる1990年代以降にそういった店舗も増えていきます。

 

インターネットが全国的に普及してきた現在でも、Eコマースの利用率は日本は世界と比べて低い状況にあるようです。

2017年において、日本のEC化率は7.3%で、中国の22%、韓国16%などと比べて低い割合に止まっています。

インターネット普及率はかなり高いのに、EC化率が低いというのは、様々な要素が関わっているのですが、クレジットカード決済に対する不安感が強いこと、さらに諸外国よりはるかに小売店舗が充実しているからということです。

 

非常に参考となる記載が多かったと感じました。