ことわざと呼ばれる、色々な知恵が詰まった言葉には江戸時代以前からの伝統的なものもあり、最近生まれたようなものもあり、様々です。
著者の時田さんはことわざの研究を長年続けられ、日本ことわざ文化学会の会長を務められているということです。
ことわざについて、色々記された「ことわざ辞典」と言ったものは数多く出版されていますが、この本はそれらとは少し違った観点から見ており、「まだ”ことわざ”になっていないがなりそうなもの」を集めてみたということです。
本書で取り上げた語句は以下の原則に沿って集められています。
1,既存のことわざ辞典には無い語句であるが、ことわざとして資料等に記されている
2,中国の古典を除いた外国のことわざ
3,ことわざと見なされていないものの、ことわざとしての要素を持つと認められる
4,辞典にはあるものの初出が明治期以降のもの
見た感じでは、「もうほとんどことわざ」というものもあり、最近生まれたのが歴然というものもあり。
また、外国のことわざなどもすでに日本でも普通に使われているものが多いようです。
「皮を切らせて肉を切れ」 (”肉を切らせて骨を断つ”もあり)
非常によく使われるものですが、明治期以前の用例は無いようです。
剣術などの用法から由来するものと思われますが、その出典も明らかではありません。
「火のない所に煙は立たぬ」
いかにも昔からあることわざのようにも見えますが。
実は西洋由来のもので、英語の No smoke without fire. あたりを翻訳したようです。
日本では明治時代から用例が見られますが、多く登場してくるのは大正時代の文学作品からのようです。
大正13年の長田幹彦の小説「霧」、大正10年の寺田寅彦のエッセイ「アインシュタイン」に出てくるものが早いほうです。
「氷山の一角」
これも西洋由来でした。
英語の the tip of the iceberg を翻訳したようです。
現在では様々な分野で使われており、常用ことわざとも言えます。
1956年の大橋喜一の戯曲「楠三吉の青春」に用例あり。
これも西洋からのものです。
イソップ寓話から来た西洋のことわざを翻訳しました。
日本の早い用例では、明治29年の「大勲位首相」という新聞記事にあります。
明治43年の山田美妙「平清盛」にも記されていますが、用法が少しずつ変わっており、言い回しはなかなか一定化しなかったようです。
「土俵の下に銭が埋まっている」「勝負は下駄をはくまで分からない」等々は、よく使われますが、さすがにまだことわざとは考えられていないものの、この先はそうなるかもしれないようです。
ことわざと言うものも、まだまだ発達段階にあるものだということでしょうか。