爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「サイエンス異人伝」荒俣宏著

科学や技術の発展には多くの人々の力が関与しています。

それを見るのに好適なのが各地にある博物館でしょうか。

この本では近代の科学を物語として語っていこうというものですが、特に19世紀から世界をリードしてきたドイツ、そしてその後科学をビッグビジネスとしていったアメリカを、ドイツミュンヘンにあるドイツ博物館、そしてアメリカのスミソニアン博物館を巡ることでたどり、そこに見られる人々の人生を語っていきます。

 

そこに展示されているものは「モノ」なのですが、その奥には多くの科学的成果があり、それが重なりながら発展してきたことが分かります。

 

カメラを最初に語りますが、そこにはそれ以前にレンズを磨いて微小世界を観察していったフラウンホーファーまで遡っています。

彼はレンズ磨きですが、そのまま大科学者と言える業績を上げました。

 

飛行機も動力式の飛行はライト兄弟となりますが、それ以前にドイツで多くの蓄積を重ねています。

リリエンタールもライトと同様「兄弟」で活躍しました。

しかし彼らはあくまでも「はばたき」にこだわってしまいました。

 

コンピュータも今に続くものはアメリカで開発されましたが、その原型はドイツにありました。

それは中国や日本にも伝わっている自動人形と同じ源から発しました。

18世紀にはヨーロッパで流行した自動人形ですが、その頃に生まれたイギリスの数学者チャールズ・バベジが創案したのが世界最初のプログラム式コンピュータだったそうです。

 

アメリカではエジソンに象徴されるような「発明家」という人物が頻出しています。

アメリカでは産業の蓄積というものが無かったために、その初期から発明というものを商品とするシステムが出来上がりました。

ヨーロッパでは発明したものを買い上げてくれるパトロンを探すのに大変な苦労があり、またそれを商品化しようとすると熟練工を中心としたギルドと抗争をしなければならなかったのですが、アメリカでは優れた発明はすぐにでも商品として売り出し、儲けることができました。

 

エジソンの発明品も、すぐさま商品化できるようなものであり、さらに業界や市場から求められているものでした。

電信に着目しそれにまつわる製品を次々と世に出していきましたが、ティッカーを呼ばれるプリントできる電信装置を発明したのも株式市場の相場情報を飛躍的に迅速に交換することができるようにして、株取引を有利にするためのものでした。

 

アメリカ旅行の最後にはプリンストン高等研究所を訪れます。

ここは奇人の殿堂と呼ばれるところで、孤独な天才科学者ばかりが集まりました。

この研究所はデパート業界で財を成したルイス・バンバーガーの寄贈した資金を運営して成立しており、その運営を任されたエイブラハム・フレクスナーにより作り上げられました。

フレクスナーはこの研究所を「完全に自由な研究者の楽園」とすることを目標としました。

そして招聘したのがアルバート・アインシュタイン、そして数学者のクルト・ゲーデルだったそうです。

そしてそれは今も続いているとか。