爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「身のまわりのあんなことこんなことを地質学的に考えてみた」渡邉克晃著

地質学とは岩石や地層など地面の下のことを考える学問です。

その成果として鉱物や土壌など私たちの生活に多くのことが役立っています。

しかし学校で習うこともあまりないためか、それについて知らない人が多いようです。

そこで、「身のまわりのあんなことこんなこと」について地質学がどう関わっているかを解説しようという本です。

 

岩石と鉱物についての基礎知識といったところから話を始め、身のまわりの美しいものの正体に何が関わっているか。

さらに「粘土」というものは皆知ってはいるでしょうが、その正体はなにか。

エネルギーと環境に地質学はどう関わっているか。などなどの話題を分かりやすく示しています。

 

石灰石は資源の中では珍しく日本で豊富に産出されます。

その理由もまさに地質学的なのですが、あまり知る人はないようです。

約3億年から2億年前に熱帯付近に大規模なサンゴ礁ができました。

そこは海底火山の噴火で海の中の山、海山ができ浅い海になっていたところです。

サンゴの骨格や有孔虫という動物プランクトンの殻が堆積し石灰岩となりました。

それがプレートテクトニクスの作用により徐々に北に動かされ日本列島のあたりで地下深くに引きずり込まれます。

ところが石灰岩は地下には入らずに陸地の端に残ってしまいその結果日本列島上に大量の石灰岩が溜まりました。

日本の石灰岩は他の地域のものと異なり海中でできたために不純物も少なく良質なものだそうです。

 

火山噴火で吹き飛ばされる火山灰というものは「灰」という字で誤解している人が多く、焚火の灰と同じようなものと思っているようですが、まったく違います。

尖ったガラスや鉱物の粒のようなもので、車に積もった場合拭き取ろうとすると傷がつきます。

発泡したマグマが急速に冷されてできたために尖っているということです。

 

粘土というと誰もが子どもの頃遊んだ覚えがあるでしょうが、それが何かということはほとんど知られていません。

粘土というのは地質学では「粘土鉱物」と呼ばれる一群の鉱物を指します。

微細な粒子で大きさは2μm以下、そして1nmほどの極薄の層が何枚も重なった構造をしています。

主としてカオリン石という粘土鉱物からなるのですが、これは花崗岩の風化によって花崗岩中の長石と黒雲母からできます。

花崗岩中の石英はなかなか風化しないために粒状で残るそうです。

天草陶石は粘土と比べて石英の割合が多いために陶器ではなく磁器製造に適しているのだとか。

 

日本の土壌の多くは火山灰由来です。

畑や果樹園の土壌の大部分は黒ボク土というもので、これは火山灰に動植物由来の有機物(腐植)が集積してできました。

他の地質の土壌と比べ、火山灰に多く含まれるアルミニウムが腐植と強く結びつき、腐植が分解されるのを防ぐからです。

ただし、それは植物の生育にとって不可欠のリンも土壌中に強く結合してしまい、かつては作物成育に適さない土壌だと言われていました。

それが戦後になりリン酸肥料が開発されてその使用が広まったために作物栽培が可能となり、他の優れた性質から農作に向いた土壌ということになりました。

 

オリンピックのメダルは金・銀・銅です。

金銀は貴金属ですが、そこになぜ「銅」が入ってくるのか。

実は金属で特有の色がついているというのは主な金属の中では金と銅だけで、他の金属はほとんどが灰色なのだそうです。(合金は除く)

したがって、色で見分けることが必要なメダル三種を設定する際、金銀銅というのは分かりやすいものだったからということです。

これが貴金属だからということでプラチナなどを入れたとしたら、銀との見分けがつかずどちらが一位なの二位なのと分かりづらくなってしまったところでした。

 

なかなか面白く、そして我々の生活に密接に関わることが多いのが地質学ということがよく分かります。