爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「炎上する社会」吉野ヒロ子著

ネットでの「炎上」という現象はかなり知られるようになっています。

ネット上の行動だけに限らず、企業活動に対するクレームの意味でも発生する場合もあり、企業の広報担当者などにとっても関心を持たざるを得ないものとなっています。

そのような「炎上」について、ネットコミュニケーションなどが専門の研究者、吉野さんが炎上に関わるあれこれを考察していきます。

なお、本書刊行は2021年、内容の多くは吉野さんが博士論文として2018年にまとめたものが主となっていますので、現在とは少し違った状況かもしれません。

炎上の舞台もあ2ちゃんねるツイッターが多いとなっていますが、どちらも現在は名称が異なっていますが、まあ状況としては同様と言えるのかもしれません。

 

「炎上」という名称が定着したのは2005年以降、評論家の山本一郎氏がブログに批判的なコメントが集中した状況をそう名付けて以来だということです。

その頃にはバイトテロとも言われる、アルバイトが店の中で不適切な行動をしたことをネット上に上げてしまいそれに対して多くの批判が集まるということが頻発しました。

しかし、それ以前にも炎上というにふさわしいような騒動も発生していました。

1999年の「東芝クレーマー事件」というのもそれに近いような状況になっていました。

ビデオデッキの不具合で東芝社員とやり取りしていた顧客が、その社員との会話を録音しており、そこで「おたくみたいのをクレーマーと言うの」などと言われたことをネットに公開しそれに対し多くの人が批判を集中したといことがありました。

それなどはもはや炎上と言える出来事だったようです。

 

炎上に参加する人々の心理の分析というものがあります。

それには「祭」「制裁」「憂さ晴らし」という側面があるようです。

ただ単に面白いから集まる「祭」、自分の実生活の鬱屈を投影する「憂さ晴らし」というものもありますが、やはり正義感から参加する「制裁」というものが大きいようです。

 

企業活動に対して炎上が起きた際、その対応の良し悪しでその後の経過が全く違ってきます。

その例として2019年に起きたバイトテロに対する炎上の2件が比較されています。

無添くら寿司大戸屋が同じ時期に同じような事件を起こされましたが、くら寿司では収束するまでの14日間で40万件以上の投稿数となったのに対し、大戸屋では10日間で総投稿数1万件あまりで済ませました。

大戸屋の対応は素早く、2日後には問題バイトを退職処分、さらに再発防止策も発表というものでした。

こういった対応方針は起きてから決めるのでは間に合いません。

やはり平時から決めておく必要があるのでしょう。

 

炎上発生時に企業として謝罪することが多いのですが、そのやり方にも巧拙があります。

「世間を騒がせてすみません」などと言うこともありますが、これでは何の謝罪にもなっていないということも分かっていない人が多いようです。

謝罪には6つの要素が必要とのことです。

「負事象の認知」「責任受容」「改悛表明」「被害者へのいたわり」「更生の誓」「赦しを乞う」ことであり、重大な場合はこれらが備わったものが必要です。

これらの軸がぶれるような謝罪はかえってその企業に対する攻撃を強めることがありそうです。

 

今後もこういった事象は頻発するのでしょう。

企業でも広報担当などは熟知しておく必要がありそうです。