「広報」というのは最近ではどこの企業にも置かれている部門で、企業や政府・自治体、その他の組織で対外的な情報発信を行います。
本書著者の鈴木さんは数々の企業で広報を担当し、現在もNECパーソナルコンピュータの広報部長ということですが、「日経クロストレンド」というところで広報に関するコラムを書くこととなりました。
そこで考えたのが、「歴史上の事件などについて、現代の広報がもしもその時代にあったらどのようなプレスリリースをしただろうか」ということです。
よく知られている歴史上の事件を現代風のプレスリリースとすることで、「広報」というものもよくわかるのではないかと考えました。
まず知っておくべきことは、プレスリリースというのはあくまでもマスコミ向けの情報発信だということです。
今はネットでも公開しますので、一般向けのように勘違いすることもありますが、実際にはテレビや新聞などの記者がそれを見て自らの記事として書くということを目標としています。
それに向いた書き方をしなければならないのですが、できていない場合もあるようです。
プレスリリースといっても色々な事例があり、よくあるのは「リスクマネジメント」で不祥事や経営の失敗などを対外的に発表しなければならないという場合です。
これには歴史事件の中から、武田信玄の死亡、本能寺の変、生麦事件などを取り上げてプレスリリース風に書いています。
さらに「制度改革」も発表しなければならないものです。
これには墾田永年私財法、武家諸法度、生類憐みの令。
「マーケティング」としては源頼朝の「御恩と奉公」、松尾芭蕉の奥の細道など。
広報テクニックの披露では、刀狩にプレス同行、江戸幕府の一揆についての意識調査など。
よく知られている歴史について、「もしその頃に現代のような広報がいたら」と考えて作っています。
なかなか面白い着眼で、歴史を見直すことができるとともに、広報というものの役割も上手に伝えることができていると思います。
「廃藩置県」の項では、「廃藩置県、よくあるご質問」として今の行政などがよく出しているようなものを示しています。
「Q現在藩主をしています。今後の私の身分はどうなりますか。A藩主の方は強制的に東京へ移住していただきますがこれまでの藩の収入の1割を国が保証しますので安心して東京での生活を楽しんでください」
と、よくありそうな想定問答集を作っています。
プレスリリースがマスコミにとって価値があるかどうかは「記事になるネタがそこにあるかどうか」の一点に尽きるとしています。
マスコミはその記事が広く読まれるという確信がなければわざわざ記事にすることもありません。
そこを食いつかせるために広報が気に掛けるのが「フック」と呼ばれるもので、ニュースにしやすくするための情報のメリハリだそうです。
そのフックをつけるコツとして、「面白い入口、意外な出口」を気に掛けるのだとか。
ただし、プレスリリース自体にそのようなものを盛り込むのではなく、あくまでもリリースを読んだ記者が「面白い入口、意外な出口」のある番組や記事を作れると思わせるようにするのが重要だということです。
例として出した聖徳太子をメディアに紹介するというものでは、聖徳太子が行おうとする十二階の冠位や十七条の憲法を最初に出してしまうとつまらないので、「10人の話を一度に聞ける」ことを最初に掲げるというテクニックを使っています。
聖徳太子の施政方針演説だけでは記事としては平凡になってしまいます。
それが「10人の話」を出すことでメディア側に食いつかせることができるのだそうです。
いやはや、なかなか奥の深い仕事のようです。