爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「鬼平犯科帳(十九)」池波正太郎著

延々と続くように思えたのですが、あと数冊となりました。

 

「霧の朝」深川万年町の桶屋の富蔵は本業は女房のおろくに任せっぱなしで御用聞きの政吉の手先となって働くことがほとんどです。

その子の幸太郎は貰い子だったのですが、かどわかされてしまいます。

平蔵も捜索に当たりますが行方がしれません。

その頃、乞食坊主だった井関録之助は今では寺に住み込み和尚の手助けなどをするようになっていたのですが、思い立って昔住んでいた品川の小屋を訪ねてみます。

するとそこには乞食の夫婦が暮らしていたのでした。

そしてその夫婦が幸太郎の生みの親だったのです。

その女房のおきねが物貰いに歩いていた時にちょうど幸太郎がある家にいたのに気付いたのでした。

そしてその頃富蔵には幸太郎をかどわかした賊から脅迫状が届けられました。

乞食夫婦をたまたま訪れた井関が助け、幸太郎がいたという店に乗り込みます。

 

「妙義の團右衛門」上州を本拠に荒らしまわっている妙義の團右衛門が江戸にやってきて、たまたま馬蕗の利平治と出会います。利平治が火盗改の密偵となっていることに気が付かない團右衛門に利平治も話を合わせます。

しかし別れた利平治を万が一を疑い配下に付けさせ、利平治が火盗改役宅に入るのを見て驚きます。

團右衛門は計画していた盗みはあきらめますが、その代わりに利平治と平蔵に復讐をすることとします。

利平治を殺害しそのまま逃げ延びてしまいます。

まんまとしてやられた平蔵は一代のしくじりと悔やみます。

しかし大胆不敵な團右衛門は信濃で大きな盗みを済ませた後、また江戸に向かい利平治に会った時にお気に入りだった女の元を訪れます。

ところがそれまで数か月の間ずっとその女を見張っていた火盗改に捕まることとなります。

 

「おかね新五郎」平蔵が本所の鐵などと名乗り無頼の生活をしていた頃、付き合いのあった売春婦、おかねの年老いた姿に出会った平蔵はそのおかねが町人に包丁で襲い掛かるところに出くわし、助けます。

おかねは平蔵の道場の先輩、原口新五郎と共に行方をくらました過去がありましたが、その後新五郎との間の子どもをその町人弥助に殺されていたのでその仇を取ろうとしたのでした。

平蔵はおかねと新五郎の仇討ちを助け、見事弥助を討ち取ります。

 

「逃げた妻」同心木村忠吾が町の見回りの時に立ち寄る居酒屋治郎八でよく出会う浪人藤田彦七に久しぶりに出会い、かつて彦七と娘を置いて逃げた妻から手紙が届いたと打ち明けられます。その手紙には助けてくれと書いてありました。

彦七はその後再婚しており、現在は後妻と娘と暮らしているのですが、先妻の手紙も何やら危険な状況を示しておりやむにやまれず忠吾に相談したのでした。

忠吾から話を聞いた平蔵は忠吾と彦七が会って話をするという湯島天神の近くに赴きますがそこでかつて捕らえる寸前で逃げられた盗賊燕小僧を見つけ後をつけます。

すると小石川の先の雑木林の中の小屋に入るのですが、そこに浪人と共に居たのが藤田の先妻おりつでした。

燕小僧と浪人竹内重蔵のみと見た平蔵は一人で襲いかかり、竹内を切り燕小僧はお縄にします。

おりつはそのまま知り合いのところに置いておいたのですが、なんと藤田彦七は娘と後妻を捨てておりつと逃げてしまったのでした。

 

「雪の果て」先妻と一緒に逃げた藤田彦七は神田の大店の和泉屋万右衛門の使用人たちの手習いの教授をしていました。しかし逃げていたためにその手習いもできなかったのですが、それが戻ってきます。

実は先妻のおりつは盗賊の浪人渡辺八郎に拉致され、それで藤田を脅して和泉屋への押し込みの手引きをさせようとしていたのでした。

感づいた火盗改が探索を進め渡辺一味の隠れ家を突き止め見張りを始めるのですが、思い詰めた藤田は油を持ち隠れ家に入りそれに火をつけてしまいます。

慌てた火盗改は隠れ家の周りを固め逃れてくる盗賊たちを捕まえるのですが、藤田は盗賊と切り合い死亡、さらに地下牢に閉じ込められていたおりつも焼死してしまいます。

 

「引き込み女」火盗改に煮え湯を飲ませてきた磯部の万吉を築地で見かけたという情報が入り、密偵おまさもその捜索のために見回っていました。

そのさなかに旧知の女盗賊のお元を見つけます。しかしその様子が引き込み役の女とは思えないもので、昼日中の町でボーっと川面を見つめるというものでした。

それを平蔵に報告しますが、さしあたり急な盗みの様子もないためおまさに任せるという言葉を貰います。

しかし近所に見張り場所を設け何日も見張りを続けてもお元に仲間の連絡が入る様子もなく、盗みの仕掛けの疑いも薄くなったかと思い、おまさはもう直接お元に当たってみることとします。偶然出会ったかのように声をかけ、話をしてみました。

するとやはり駒止の喜太郎という盗賊の引き込み役として店に入り込んでいるものの、そこの養子の主人と深い仲になってしまったということでした。

主人とはいえまだ親は隠居と言いながらピンピンしていて店の仕切りもすべて行い、養子とバカにして何も言わせないという境遇で、それに同情したお元とそうなってしまいました。

その菱屋彦兵衛はもうお元と駆け落ちをするしかないと思い込みますが、もしもそうすれば盗賊の首領をお元は裏切ることとなり、必ず探し出されて殺されることになります。

ちょうど盗賊の押し込みの日時とも重なり、お元は駆け落ちも盗みの引き込みも放棄して一人で逃げてしまいます。

全てを見張っていた火盗改はお元の後もつけさせる一方、押し込みに入ろうとする盗賊一味の捕獲にも準備して待ち、やってきた盗賊を捕らえます。

しかし一味の中でただ一人、磯部の万吉だけは家の屋根に飛び移り逃げ延びます。

そして翌年になりお元を探し出して殺害するのでした。

 

盗賊一味であっても人生を感じさせる描写でその苦しみ、悲しみを描いているところが小説全体の深みを増しているのでしょう。