爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ウクライナ戦争の嘘」佐藤優、手嶋龍一著

ウクライナ戦争が始まって以来、日本でも有数のロシア通と見られる佐藤さんは様々な人との対談や解説本の出版など大忙しの様子です。

この本ではアメリカ政治に詳しい手嶋さんとの対談をしています。

 

ロシア側の事情というものは佐藤さんの詳しいところですが、この本ではアメリカの事情を手嶋さんが披露しています。

やはりアメリカが「ウクライナ戦争の管理人」であるとの見立てです。

アメリカやNATO諸国が兵器は供与するものの兵士の参戦はさせないということでロシアとの間に本格的な戦争を始めるきっかけを作ることなく、かといって戦争の早期解決を図ることもせず、長期戦に持ち込んでロシアの弱体化を狙うというものです。

 

ロシアが侵攻に踏み切った真の理由ではロシアとウクライナの事情が詳しく解説されています。

あまり注目されていませんが、2008年のジョージアでの戦闘というものがウクライナ情勢にも深く影響しているようです。

ジョージア北部の南オセチア自治州はロシア系住民も多いところでしたが、その独立を求めた運動にジョージア政府は軍事弾圧を行いました。

それに対しロシア軍は電撃的に侵攻し5日間で戦闘を終わらせました。

その4か月前にNATO首脳会議でウクライナジョージアNATO参加希望を歓迎するという声明があったのを受けてのことでした。

この戦闘がそのままウクライナ戦争にもつながっています。

 

ウクライナという国の成り立ちについても詳しく述べられています。

もともとウクライナという統一した国家はなく、ソ連の体制下で作られたもので、東ウクライナ、中部、西部のガリツィアは歴史も文化も全く異なるものです。

宗教も異なりガリツィアではカトリック系、東ウクライナではロシア正教寄りのものです。

2014年にはロシア寄りの政権をガリツィア系が打ち破りました。

それでロシア人への圧迫を強め、ウクライナ語だけを公用語としたことが反発を招いたということです。

その反対運動にウクライナ政府が軍事的に弾圧を行った、それに対してロシアが介入したという構図です。

 

西側報道ではプーチンが狂ったとまで言われていましたが、2022年10月にモスクワ郊外で各国代表を招いて開いたヴァルダイ会議ではプーチンは1時間余りの講演を行いさらに出席者と3時間にわたって討論を繰り広げました。

しかも講演の時にはメモに目を落とすことがあったものの、討論会では一切メモを見ることすらなく白熱した討論を行いました。

日本の政治家が記者会見すら事前に貰った質問に役人が作った回答を読むだけと比べるとその資質の優れていることは明らかで、このような人物が狂っているなどとは全く言えません。

西側が気づいていないのが「世界秩序の地殻変動」であり、プーチンはそれを体現しているだけです。

西側が指摘しているほどにはロシアは世界の中で孤立していない。

中国などとのつながりは言われていますが、それ以外でもアフリカ諸国や中東、アセアン諸国などロシアを支持するとまでは言わなくても敵対はしない国が増えています。

 

ロシアのウクライナ侵攻と同じように見られているのが中国の台湾への姿勢です。

これに対しアメリカはそれまでの曖昧な態度を捨てて台湾支持を強めているようにも見えます。

これも「バイデンは耄碌した」と見る人もいます。しかし実際はバイデンは上院議員時代から外交関係が専門だった政治家であり、その態度変化は周到な準備があってのことでしょう。

 

佐藤さんの見るところ、停戦のための条件としては中立化しかないということです。

そしてそのためのシナリオは、ウクライナが歴史・宗教などが異なる3つの地域から成り立っていることを考えれば、それぞれに「分離・独立」することです。

ロシア支配のノヴォロシア(東ウクライナ)はクリミア同様にロシアに併合。

キーウなどのマロロシア(ウクライナ中部)は文字通りの中立国として独立。

そして南西部のガリツィアは西側の一員として独立。

これをウクライナが飲むことは現状ではありえないのですが、それしかないだろうということです。

 

日本は一応は西側に追従していますが、まだそこまでロシア敵対姿勢を見せていません。

それを良いことに、独自の外交を進める余地はあるようです。