爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「鬼平犯科帳(十)」池波正太郎著

多くの作品を読んでいますが、それぞれ凝った作りになっており飽きるということがあまりありません。

 

「犬神の権三」盗賊犬神の権三郎は火盗改与力佐嶋忠介と町で出くわし捕まってしまいます。しかし夜になって火事が起きその騒ぎの中で牢破りしてしまいます。

それを手配したのは火盗改の密偵となっていた雨引きの文五郎でした。文五郎はかつて女房が病気となり亡くなった時に世話をしてくれた権三郎にその義理を果たしたのでした。

「蛙の長助」昔は掏摸の名人といわれた長助ですが年老いて金貸しの取り立てをしています。取り立て先の浪人から痛めつけられたところを平蔵に救われます。長助には昔捨ててしまった女房と子供がいたのですが、その子が苦境に陥ったことを知り金を渡したいと再び掏摸を働き出しますが思うように稼げないまま、急死してしまいます。

「追跡」市中見回りをしていた平蔵はかつて火盗改の目明しをしていたものの素行不良のため追放した藪ノ内の甚五郎を見つけます。そのあとをつけたのですが、少し狂いかかった剣客下氏九兵衛に立ち合いを迫られます。適当にあしらって追跡を続けたい平蔵でしたが九兵衛に切りかけられ。

「五月雨坊主」火盗改の似顔絵描きを請け負っている石田竹仙の家の前に行き倒れて死んだ男が死に際に竹仙の顔を見て「武助が死んだ、おつとめは無理」と言い残しました。どうやら竹仙は盗人仲間の誰かに似ていたようです。竹仙に自分の似顔絵を描かせそれで探索を開始するとそっくりの怪しい人間が浮かび上がります。

「むかしなじみ」火盗改の老密偵、相模の彦十は町でむかしなじみの盗賊網虫の久六と出会います。彦十よりは少し年下ですがそれでもかなり年輩の久六から一度は捨てた妻子が病気となっていて金をやりたいと頼まれ、最後の盗みの手伝いをすることになります。それを察した平蔵は何とか止めようと五郎蔵おまさの夫婦に彦十の監視を命じ、久六一味の盗みの実行直前でお縄にします。

「消えた男」与力佐嶋忠介がかつて平蔵の前任者堀帯刀が火盗改長官であった頃の同僚高松繁太郎と行き会います。高松は堀の仕事ぶりに嫌気がさし行方をくらましたのでした。

その時に捜査の対象だった盗賊一味の捕縛に助力しその後は火盗改の密偵となりますが、一味の残党に殺害されます。

「お熊と茂平」本所弥勒寺の門前で茶店を営む平蔵の昔の知り合いのお熊は弥勒寺の寺男茂平と話をし合う間柄でした。しかし茂平が急に重い病となり死の直前にお熊に告げたことは盗賊の引き込みであることが明らかな内容でした。その伝言を伝えた先が盗賊の盗人宿で平蔵は探索を始め弥勒寺への盗みの直前に一網打尽とします。

 

この鬼平犯科帳では与力同心の描き方より密偵たちの描き方の方に著者の力が入っているように感じます。

雨引きの文五郎、高松繁太郎とこの巻に登場した密偵たちにもそれが見えます。