爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「鬼平犯科帳(二十)」池波正太郎著

終わりに近くなり、老いた剣客、盗賊の悲哀といったものが多くなってきたように感じます。

 

「おしま金三郎」かつて火盗改同心であった松波金三郎は情報入手のため女盗賊と情を通じたことが露見しお役御免となり追放され町人となりました。

一味はお縄となりましたが、その女おしまは見逃されました。

しかし松波はその女おしまと共に暮らすことなく、一人で居酒屋をやっています。

おしまが松波の店にやってきて、盗賊一味の片割れが松波と共に一味を逮捕した小柳安五郎に復讐しようとしていると告げます。それを聞いた平蔵は警護に当たります。

無事盗賊を討ち果たしますが、松波は江戸から姿を消します。

 

「二度あることは」同心細川峯太郎は父母の墓参りに行った先の茶店の出戻りお長と浮気をしたことで盗賊を発見することになったのですが、浮気の件も平蔵にばれてひどく叱責されました。

しかし墓参りに行かぬわけにもいかず、平蔵にわざわざ許しを得て墓に向かいます。

ところがお長の茶店の隣の、以前盗賊同士の仲間割れで主人が殺された小間物屋を訪ねている老人を見つけ、これも盗賊の片割れかと疑い後をつけます。

老人はやはり昔は盗賊だったものの今は眼鏡師となっている市兵衛でした。

市兵衛は殺された友次郎から昔金を預かっており、それを返さねばと訪ねたのでした。

しかし友次郎がすでに殺されたことも知らないまま戻ります。

そんな時にやはり昔の盗賊仲間ではあるものの、兇賊の三雲の利八に見つかり、また盗みのための合鍵作りを強要されることとなります。

ちょうどその場面に行き合わせた細川は三雲の利八の後をつけ盗賊一味の隠れ家を突き止めます。

細川の行動はまだ平蔵に報告されていなかったのですが、不審を感じていた平蔵は細川をひそかにつけており、盗賊一味もわずかな手勢で片づけてしまいます。

それを後から聞かされた細川はまたも平蔵にこっぴどく叱られることとなります。

お市兵衛はその後密偵となります。

 

「顔」かつて平蔵が剣道修行をしていた高杉道場には平蔵や岸井左馬之助よりはるかに腕の立つ井上惣助という旗本がいました。

その井上そのままの顔の男が歩いているに平蔵は行き当たりました。

しかし井上はその頃何やらの罪を犯し身は切腹、家も断絶となっていたはずです。

平蔵はその男をつけて居場所を確かめました。

すぐに顔を出すわけにもいかず様子を見ていると三人の浪人が井上の家に押し入り井上に襲い掛かりましたので、平蔵はすぐに飛び出し浪人を叩き伏せました。

しかし井上惣助であればそのような浪人三人などにやられるはずもないので不審に思った平蔵はその老人に名を聞きます。すると老人は元盗賊であることを自白し、島田の惣七と名乗ります。声も全く違うために他人の空似だったかと思います。

ところが惣七を取り調べていると、その生まれは江戸で母親は茶くみ女をしている時に客の旗本との間に子供を作り、それが惣七となったと明かしますので、やはり井上惣助の腹違いの兄弟と判明します。

 

「怨恨」何度も登場し火盗改を付け狙う磯部の万吉がまた登場します。

万吉が浪人杉井鎌之介に殺害を依頼したのが、大滝五郎蔵が使っている密告者、桑原の喜十の家に滞在している昔の盗賊仲間、今里の源蔵でした。

喜十は源蔵に借りがあると感じていたため、その件は五郎蔵にも内緒にしていたのですが、五郎蔵は喜十の態度に不審なものを感じ長谷川平蔵に報告します。

喜十の店を見張りだした密偵たちはそこを見張っている磯部の万吉に気づき、一気に万吉と杉井を召し取ります。

 

「高萩の捨五郎」平蔵は相模の彦十を連れて現在の向島に見回りに行きますが、そこの料理屋に入るとそこで彦十は昔の知り合いの盗賊を見つけます。それが高萩の捨五郎でした。

店を出た捨五郎を平蔵たちはつけますが、その先で異変が起きました。

道を歩いていた大身の武家に向かって木の上から小便を掛けた子どもがいたのでした。

少し知恵遅れで悪いとも分からないままやったことでしたが、激高した武家が子供を引きずり下ろし切ろうとします。

そこに出会った捨五郎は身を捨てて間に入り子どもと親を逃がしたものの自身は切られて重傷をおってしまいます。

捨五郎を助けた平蔵は彦十に命じて捨五郎をお熊の茶店で治療させます。

意識を取り戻した捨五郎は彦十に頼み盗みの加勢を頼まれていた籠滝の太次郎に手紙を託します。

しかしもともと嫌々ながらの盗みの加勢であるため疑っていた太次郎は彦十をつけて捨五郎の居場所を探します。

逆にその盗賊をつけた平蔵は一気に籠滝一味を捕らえます。

 

「助太刀」平蔵は昔恩を受けた細井光重の息子彦右衛門が労咳の治療をする屋敷に見舞いに訪れた帰り、白金近くの樹木谷で男女が争うところに行き会います。

その男が昔の知り合い、横川甚助でした。

甚助は平蔵が通っていた道場に住み込み、剣術修行の傍ら掃除や使い走りなどをしていたのですが、預かった金を持ったまま行方不明となっていたのでした。

女が去ったあと平蔵は甚助に名乗り話を聞きます。

するとその女お峰は母親を殺害した浪人を討つ助太刀を甚助に依頼し、金を渡したばかりか体も許していたものの、いざその仇の市口又十郎が見つかったらあまりにも強そうなので甚助は敵討ちの助太刀を渋っていたために争いとなったということです。

それを聞いた平蔵は甚助に敵討ちをするように命令し共に市口のところに出向きます。

すると、市口又十郎はお峰の母の仇などではなく、お峰の前の愛人で市口がつれなくしたために恨みを買っただけということがわかります。

結局、市口と甚助、平蔵の三人でお峰のところに出向きます。

 

「寺尾の治兵衛」大滝の五郎蔵が笠もかぶらずに町を歩いていると旧知の口合い人寺尾の治兵衛に声を掛けられます。料理屋で話を聞くと今度生まれて初めて盗みの采配を振るうので手伝いをと頼まれます。

治兵衛には駿河の島田宿に女房が居り、そこに生まれた娘が嫁ぐこととなり嫁入り道具を持たせたいとの気持ちでした。

十名ほどの盗人を集めいよいよ盗みを実行となったところで異変が起こります。

治兵衛が出かけたちょうどその時、近くの御家人で発狂し座敷牢に閉じ込めていた者が抜け出して刀を振り回して手当たり次第に通行人に切りつけていたのでした。

何人かを殺傷した後、逃げ遅れた女の子に切りかかろうとしたところで治兵衛が間に入り自らは背中を切られたものの女の子を守ったのでした。

平蔵の駆け付けるのが少し遅れ、治兵衛は息絶えたのでしたが狂人は取り押さえました。

盗賊一味は捕らえましたが、治兵衛の残した金は本来は没収するところ、平蔵が目をつぶり島田宿の治兵衛の家族に届けさせることとなります。

 

やはり老盗の「最後の盗み」はたいがい悲劇的に終わるようです。