爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「スポーツ国家アメリカ」鈴木透著

アメリカではスポーツが巨大産業となっており、巨額の報酬で世界各国から選手を集めているといったイメージがあります。

アメリカで盛んなスポーツといえば、野球、アメリカンフットボール、バスケットボール、アイスホッケーといったものですが、このうちバスケットボールを除けばあまり世界中に広まっているとも言えないようです。

どうやらスポーツというもの自体、アメリカという国の出来方、性質に大きく関わっているようです。

そういったアメリカのスポーツ事情について、アメリカ文化研究者で慶應義塾大学教授の鈴木透さんが詳細に語っていきます。

 

現在世界の多くの国で行われているスポーツの多くはイギリスが起源となっていますが、「アメリカ型スポーツ」としか言えないようなスポーツも存在し、そちらがアメリカで極めて強力な力を持っています。

イギリス発祥のスポーツは貴族社会からできてきたクリケットラグビー、民衆社会からできてきたサッカーなどがあります。

一方、アメリカ型スポーツの野球、アメリカンフットボールはそれぞれクリケットラグビーから発展してはいますが、その性状は元のものとは全く異なるものになっています。

さらにバスケットボールはアメリカで生まれその発展も独自のルートを通っています。

 

アメリカ型スポーツの特色として、メンバーチェンジが容易であり一度退いてもまた出ることも可能といったことがあります。

これは、企業活動や戦争とも共通する性質であり、それぞれの構成員がその最も得意な分野で勝利に貢献するという意味では同じと言えます。

また司令官としての監督やコーチといった人々の指示が大きな要素という点も共通しています。

 

アメリカで最も早く広まったのは野球でした。

すでに南北戦争時には両軍の兵士たちが戦闘のない時に野球をしていたと言われます。

アメリカの社会の中で野球というものは地域社会と深く結びつき、それと共に発展していきました。

 

アメリカでも工業化が進み産業社会化していくのですが、その動きとピッタリ同じだったのがアメリカンフットボールの成立と発展でした。

守備チームと攻撃チーム、さらにキックだけするチームなどをどんどんと入れ替えていくというのは産業活動や戦争と共通の方法でした。

さらに大学を中心としたリーグが各地に出来上がり、そこを出身の選手がプロチームに加わるという形でスポーツ社会が構成されていきます。

 

バスケットボールはそれらとは少し異なり、宗教界の力が大きいものでした。

このスポーツはアメリカで作られたものですが、そこにはプロテスタントに代わって普及していった福音派キリスト教組織が大きく関与していました。

青年組織としてYMCAが作られたのですが、その指導者のジェイムズ・ネイスミスによって冬季のスポーツとして作られました。

そのため、室内でもできるような設計となりまた器具もさほど必要でないことから貧民層でも広がっていきます。

黒人や移民にも普及していき、世界中に広まることとなります。

 

イギリスのスポーツは貴族から生まれたものが多く、アマチュアリズムというものが重要視されましたが、アメリカではプロ化が早くから進み、資本主義との結びつきも強いものでした。

アメフトの大学リーグも大学側の思惑と結びつき早くからセミプロ化していきます。

形だけ学業優先のように見せながらも選手はスポーツ優先、体を壊せば退学という使い捨て構造ができていきます。

 

アメリカ型スポーツは世界中にはなかなか広まらず、アメリカ国内のみで盛んに行われているようです。

この構造は実はアメリカ主導の「グローバリズム」と共通する性質を持っており、グローバルと言いながら実はアメリカの価値観を押し付けるだけというものです。

野球やアメフトでもアメリカ国内での優勝決定戦をワールドシリーズなどと言って最高の試合かのように示していますが、それがグローバリズムの正体です。

また多くの選手が世界中からアメリカに吸い寄せられていますが、それも真のグローバル化というものではなく、植民地から有望選手を吸い上げるというかつての植民地主義が形を変えたものに過ぎないのかもしれません。

選手を搾取する構造というものは、かつて国内の黒人有望選手を使い捨てていったものでした。

それを世界に広げているだけです。

 

なお、アメリカでは女性のスポーツ参加というものが意外に限られているということがあります。

上記の野球などのアメリカ型スポーツでは女子リーグなるものも存在しますが、それは女性のエロチシズムを打ち出しただけのようなものもあり、スポーツ界では女性の地位は低いものです。

チアリーディングというものもアメリカで出来上がりましたが、これも男性しか加われなかったスポーツに女性があくまでも見せるだけの存在として加わったものでした。

これは世界的にも珍しい「女性チアリーダー文化」とも言うべきものです。

アメリカではチアリーダーとなる女性が数百万人もいるそうです。

女性スポーツというものを阻害する要因かもしれません。

 

スポーツというものを見ればかなりアメリカ社会というものが分ってくるのかもしれません。