爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ルールの世界史」伊藤毅著

ルールというものはこの社会のどこに行っても存在し、社会生活の隅々にまで関与してきます。

ルールと言ってすぐに思い出すスポーツもそうですし、社会生活のルールとしてはゴミ出しのルール、交通ルール、家庭の中では家事の分担ルール、法律の世界でのルール。

本書著者は経済が専門の弁護士ということですので、本書も経済ルールを主に話を進めます。

とはいえ、それだけでは取っつきにくいということで、スポーツのルールについての話も混ぜながら進めていきます。

 

本書冒頭は有名なフットボールのルール制定の頃の話から始まります。

手を使わないことにこだわるフットボール派と手を使っても良いとするラグビー派との話はまとまらず分裂してしまいその後は近づくことはありませんでした。

それにしてもサッカーは今でもルールのほとんど無いことで他のスポーツとは違うのですが一方のラグビーは非常にルールが多く、プレーヤーでも知らないルールがあるという噂もあるほどです。

 

第2章からは本題?の経済ルールの話となり、お金と信用のルール、知財創造のルーツと進み自動車の誕生から発展までのイノベーションを巡るルールの話を展開します。

 

現代ではインターネットが世界中に普及し社会構造すら変えていきますが、これはルールの世界でも同様でルールメイキングの仕組みを変えようとしています。

知的財産についてのルールなどはまさに激変の時代となっており、これまでの紙の著作物だけの著作権のルールがどこまでコントロール可能か、不明な時代となっています。

 

ルールも決して変えられないものではありません。

スポーツでも頻繁にルールの変更があり、それはスポーツの魅力をより高めるように工夫されていきます。

社会のルールも同様であり、不都合があればどんどんと変えていく必要があります。

それをせずに放置するとルール・チョーキングという首を絞められるような状態に陥ってしまいます。

そのようなルールは社会のためにならず、変更するか廃止するかしかありません。

 

特許制度というものが初めて産まれたのは15世紀のヴェネツィアでした。

有能な職人を呼び寄せるため、補助金を出して特権を付与しようというもので、「新規にして独創的な機械を作り上げたものに対し10年間の独占権を認める」というものでした。

しかし年に1件程度の認可例はあったものの大して広まらずに消えていきました。

ところがその後イギリスでエリザベス女王の時代に特許制度が大幅に広まりました。

このイギリスの制度はヴェネツィアのものとは大きく異なり、手数料を要求しました。

現在の貨幣価値で一件当たり数千万円にもなるという高額なものでしたが、それが王室の収入になるということで乱発されるようになります。

それには議会からの批判も強くなり、それとの議論の過程で特許制度というのは練られ高度化していきます。

その結果、手数料制度と公開制度というものが決まっていき、現在まで続く原型が形作られるようになりました。

 

経済における信用ルールは期待と安心感から生まれます。

かつての経済ルールの信用は安心感の方が強いものでした。

しかしインターネットの世界では期待を安心感がはるかに上回ってしまいます。

仮想通貨もまさにその典型でした。

貨幣には国の信用力が安心感の裏付けとして付いていますが、仮想通貨には何もありません。

それでも期待だけは膨れ上がり金が集まりました。

このような期待感だけの行動はネット社会特有の物かもしれませんが、それが実体社会にも徐々に広がり影響を与えていきます。

 

ルール無しでは社会は動かないのでしょうが、それでも硬直したルールでは社会の首を絞めてしまう。

そこをはっきりと認識してルールを発展させていくのが必要なのでしょう。