爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「多様な社会はなぜ難しいか」水無田気流著

多様性というより、本書副題にあるように「日本のダイバーシティ進化論」の「ダイバーシティ」という方が分かりやすいのかもしれません。

これもまえがきに書かれているように、「コンプライアンスを”法令順守”と訳すのと同じようにダイバーシティを”多様性”と訳すと意味が違ってくる」ということなのでしょう。

つまり、両方ともそれを具体的に感じられるような社会に日本は到達していないからということのようです。

 

なお、日本ではダイバーシティはほぼ「女性問題」かのように捉えられており、本書もほとんどそれに当てられていますが、これも本書の最後の方に書かれているように、「アメリカで日本の女性問題について講演をしたら、聴衆の方から”アメリカの黒人問題のようだ”という感想を言われた」ということで、両者の性格が通ずるところがあるのでしょう。

 

安倍内閣が「女性活躍」などということを言い出しましたが、その長い任期の間に何か変わったか、かえって悪い方に向かったようです。

女性活躍などと言っても女性が活躍できない要因を解消しようとする努力などは何もせず、ただ掛け声をかけるだけ。

そういった社会情勢の中で、2015年から日経新聞で連載した内容などをまとめたものです。

ちょうど安倍内閣の「女性活躍」の実態をリアルタイムで検証するようなものとなりました。

その実態とは、「女性活躍」をするためには「日本女性超人化計画」を成し遂げなければならないというものでした。

結婚し子供を持った女性が、その家庭での育児や家事の負担を軽減することもできないまま、仕事でも成果を挙げ昇進しろという、これはとてもじゃないけど「超人」以外にはできることではありません。

 

「プレミアム賃金」というものが指摘されています。

アメリカの場合はこれが「白人男性プレミアム賃金」です。

つまり、白人男性であるというだけで賃金が高くなる。

それ以外の人々、白人でも女性、非白人の人々の賃金はプレミアム無しの安いものです。

これが日本の場合は「男性プレミアム賃金」です。

同水準の能力をもつ従業員の場合、男性なら高い賃金を払う。

こういった企業は大小を問わずまだまだ日本には多いようです。

そういった企業には有能な女性は居つくことはなく退職する傾向が強くなります。

一方、男性はそのような企業を離れてしまうと賃金が低くなることがあるので、できるだけその会社に「しがみつこう」とします。

結果的に能力のある女性は退職し能力の乏しい男性だけが残る企業になります。

そのような企業とはどういったものか。

従業員たちは「クビにならない」ことだけを目標とし、責任を回避し、新規のチャレンジなどは避けるようなところでしょう。

これが日本の社会の停滞の大きな原因ではないかと著者は指摘しています。

 

日本の結婚はガラパゴスだとも言っています。

日本では「法律婚=同居=出産」がほぼ同じ時に為されます。

このような状況は世界的にはガラパゴスだということです。

法律婚すなわち婚姻届けを出す時が同居を始める時であり、その1年くらい後に出産する。

それが日本では普通と思われていますが、先進国でも出生率が上昇している北欧やフランスでは出生数の半数近くが「婚外子」です。

これは、同棲カップルの間に産まれた婚外子であっても婚内子との間に何らの法的差別もないために子どもをもうけた後になって婚姻届けを出すということも普通になっているからです。

少子化は困ると言いながら、このような制度改革は道徳が崩れると拒否する、そういった保守層という連中の言うことが成り立っていない一例です。

 

日本で女性が結婚したがらないと同様に男性もその願望が少なくなっています。

これは、職業の現況を見れば明白な理由が分かります。

結婚して少ししたら子どもが産まれ、女性はほとんどが退職してしまいます。

つまり、結婚して数年で収入が激減する相手を男性は自分だけの収入で養うことが必要となります。

一人で生きていくのも難しいほど給料が減っているのに、さらに扶養義務を負わされることになるわけです。

これではよほどの高給取り(しかも年が若い)でなければ結婚しようという気にもなれないでしょう。

ここにも、若者が結婚しないと責める中高年男性の誤りがあります。

実は、「結婚し子供を産んでも正社員で働き続けられる」制度にしていかなければ変わらないことなのです。

 

出産育児と仕事を両立させるためには「運がよくなければできない」のです。

「職場が理解がある」「パートナーが協力的」「希望の認可保育所に入所できた」「実母が近くに住んでいて協力的」「手のかからない丈夫な子だった」といった条件のどれが無くてもほぼ両立は不可能となります。

本当に女性が結婚し子供を持っても職場で活躍できるとは、このような条件に恵まれない「運の悪い」人でも仕事を続けられるような、そういった制度を作っていかなけれならないということです。

 

しかし、状況はコロナ禍を受けてさらに悪化する一方となりました。

若い女性の自殺が増えたという大変な事態なのですが、根本的に解決しようなどと言う姿勢は政治にも経済にもないようです。