爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「アメリカスチュワーデス物語」ネル・マクシェイン・ウルフハート著

スチュワーデス物語」というとあのテレビ番組を思い出してしまいますが、この本はかつてのアメリカのスチュワーデスたちが置かれていた差別とセクハラの渦の中から抜け出すために活躍した二人の女性の歩みを描いたものです。

 

その二人が、アメリカン航空でスチュワーデスとして働きながら労働運動の中心となったパット・ギブスとトミー・ハト-です。

 

今では客室乗務員(flight attendant)という言い方が普通のようですが、その呼称の変更にも彼女たちの活躍が関係しています。

 

客室乗務員は今では乗客の安全を守る大きな戦力としての期待を強く持たれていますが、1960年代にはそうではありませんでした。

アメリカではすでにビジネス客の飛行機利用が増えていましたが、そのほとんどは男性であり、その乗客の求めるものは女性のスチュワーデスのおもてなしでした。

そのため、アメリカ社会ではすでに徐々に男女差別は減りつつあったもののスチュワーデスの雇用に関しては全くその変化は及ばず、セクハラと差別オンパレードのようなものでした。

 

若くてきれいな女性というのがスチュワーデスの絶対条件であり、そのため結婚や妊娠は禁止、発覚したら解雇、体重制限がありそれも守れなければ解雇、そしてとにかく会社によって差はあるものの32歳、33歳、35歳になったら無条件で退職という労働条件となっていました。

さらに日常のあらゆることに監視と制限があり、そこでもマイナス点がつけられて重なれば解雇といったことが横行していました。

 

パットはとにかくひどい母親から逃げたい一心でスチュワーデスの採用に応募して合格しました。

しかしその労働条件のひどさ、給料の安さには驚くばかりでした。

そしてたまたまですが、労働組合の活動に誘われて入り込むことになります。

上記のようなひどい労働契約を一つ一つ解消していこうとするのですが、会社側も相手にならず、労組内部でもボスはすべて男性で女性の要求など全く聞き入れることもありませんでした。

しかし持ち前の負けじ魂と体力、気力で少しずつ前に進んでいきます。

 

トミー・ハト-は大学を卒業後働いたのですが、その仕事に満足できずアメリカン航空のスチュワーデスに転職しました。

そしてやはりひどい労働慣行に憤りその改善に動くことになります。

 

当時の乗客のほぼすべての中年男性に受けるようなスチュワーデスのサービスというものは航空会社が意図して採用しそれを使って集客しようというものでした。

そのための体重制限でもあり、未婚者に限るというのもそこから来ています。

さらにことさら肉体を強調するようなユニフォーム、高いハイヒールなどスチュワーデス本人たちからすれば耐えられないようなものばかりでした。

しかし実際にそれを強調するような会社の施策が受けて乗客が増えるといったことがあり、会社側も彼女たちの要求を飲むことはできなかったのです。

 

それでも社会全体としては女性の地位向上に動いており、それと絡めての法廷闘争なども交え徐々に改善を勝ち取っていきます。

 

そういった行動を認めようとしないのは、会社側であるとともに労働組合上層部も同様でした。

そのため、交通関係の労働組織TWUから離れ独立組合を作ろうとします。

これをパットが中心に行うのですが、トミーはそれには反対でそこで二人は離れることになります。

結果的にはパットが勝利しアメリカン航空の客室乗務員だけの労働組合設立に成功します。

そして多くの要求を直接会社側と交渉するようになり、成果を勝ち取っていきます。

 

ただし、これでめでたしとはなりませんでした。

1978年から始まった航空関係の規制緩和というアメリカ政府方針のため、多くの航空会社が倒産することとなり、生き残った会社も労働条件は非常に厳しいものとしました。

しかし男女差別というものは無くなっていったということは成果と言えるのでしょう。

 

非常に硬派な「スチュワーデス物語」でした。