「パラサイトシングル」「格差社会」そして「婚活」といった言葉を作った、社会学者で家族社会学を専門にしている中央大学教授の山田さんが、最近の若者たちが結婚しようとしてもできない、そしてしようとも思わなくなっているということに危機感を感じ、「結婚クライシス」という状態になっていると分析しています。
日本の結婚難の現状は、単に結婚だけの問題ではありません。
経済状況がさらに悪化する中、社会制度や日本人の意識がなかなか変わろうとしないということが根本にあります。
多くの人が中流から脱落するという不安を持っています。
それを「中流転落不安」と名付けています。
また、その不安に対しての社会的な対策というものがほとんど進んでいません。
どんなに悪化しても個人や家族が対処するしかないという状態ですが、それについての様々な事例を第1部に書いています。
そして第2部では著者が造語した「婚活」に関して書いた連載記事を基にまとめています。
第1部はおおまかなテーマにまとめてあります。
「結婚・男女交際不安」「育児・子育て不安」「就職不安」「労働不安「年金・老後不安」「社会保障制度不安」
じつに、不安ばかりの社会であり一生不安だらけで生きて行かなければならないようです。
学校で性教育に力を入れようとすると、「寝た子を起こすな」という言葉が必ずのように聞かれます。
しかし、調査によると現実には「寝た子を起こす」などということはもうほとんど起きず、「異性への性的興味」「セックス願望」といったものが急激に失われているようです。
草食化どころか「絶食化」しているとも言えます。
育児休業制度を利用するのは女性が大半であると言われ、育児休業率は2010年度で83%だそうです。
しかし、この数字は実態とはかけ離れたものです。
そもそも、この「分母」が非常に小さいものです。
専業主婦、非正規雇用やパート、フリーランス・自営業の女性は育休を取るという選択肢はありません。
出産で職場を辞めた人、変えざるを得なかった人が出産女性の4割にものぼるのですが、その人たちも分母には入りません。
育休を取ることができるのは正社員や公務員の特権のようなもので、実際には出産者の2割以下だそうです。
日本の保育所というのは、世界的に見ても非常に質が高いものです。
こんなに安価で安心して子供を預けられる施設は他の国にはありません。
しかし、この保育所を利用できる人とできない人が居るというのが問題です。
まず「子どもが入所できたこと」、そして仕事時間が保育所の開所時間と重なっている親にとってはこんなに良いものはありません。
ところが、入所できなかった場合や、自分の仕事時間が保育所の時間と合わない親の場合は大変な苦労をしなければなりません。
これは高齢者介護でも同じような問題があります。
特別養護老人ホームに入ることができた場合は本人も家族も安心して生活できますが、それができない場合は非常に重い負担が家族に押し付けられることになります。
全員を希望の施設に入れられるようにするという努力も大事なのですが、入れない人にも何らかの公的サポートを考えなければ、この格差が非常に大きいことになります。
第2部の「婚活」に関する話題では、2007年に著者がその言葉を作り出して以来の状況について様々な方向から書かれています。
結婚しようとして活動することを、最初は「結活」にしようかと思ったそうですが、「ケッカク」と聞き間違えられたら大変なので「婚活」にしたそうです。
1990年代に著者は「パラサイトシングル」という言葉を作りました。
それから10年ほどで状況は激変しました。
パラサイトシングルの場合は、親に生活を頼り切って収入は全部自分の楽しみのために使うと言った、優雅な独身者ということでしたが、それから急激に悪化した経済状況で結婚したくてもできないという若者が急増し、なんとか結婚しようと焦る状況となりました。
自然な出会いなどというものにはほとんど期待できなくなっているのでしょうが、収入が少ないために初めからあきらめてしまう人も出ています。
また、結婚相談所などを頼る人も増えているのですが、なかなかうまくまとまることも少ないようです。
相談員に結婚がまとまりやすい女性はどのような人かと聞いたら「相手に求める条件が少ない人」だそうです。
相変わらず、女性の結婚相手への条件は「収入が高く安定している」「家事を手伝ってくれる」「ハンサム」「浮気しない」だそうです。
しかし、この4つを兼ね備えている男性などはまず存在しません。
収入が高い人は家事を手伝う時間などありません。フリーターならその時間はあるでしょうが、収入は少なそうです。
収入が多くてハンサムな人なら浮気をしないわけがない(?)のですが、それが分からない女性が多いそうです。
「告白」という風習?があるのは日本の特徴のようです。
告白して彼氏彼女にならなければデートもできません。
欧米では、そうならなくてもデートは可能ですので、そうしている中で結婚に進むかどうかが判断できます。
こういった「カップル文化」が日本でも一時期生まれるかという傾向になったのですが、バブル崩壊後に急激に消えてしまいました。
人々の意識の中にかなり問題が多いようですが、それ以上に多くの社会的制度が旧態依然のままであるということがこの危機を招いていると言えるようです。
その観点で政府の政策などを見ていると、あまりにも近視眼的、小出しでケチなものと言えます。
我が家の30代の子どもはなんとか結婚してくれました。
やはり一応正社員として働いているのが良かったのでしょう。
しかし、コロナによる経済崩壊などということになればこの先どうなるか。