爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ポジティブ・アクション」辻村みよ子著

ポジティブ・アクションという言葉は日本ではあまり知られていないのではないでしょうか。

それが日本の現状をよく示しているとも言えます。

 

「政治・雇用・教育等における差別や格差を解消し、多様な人々の実質的な平等を確保する手法」すなわち積極的格差是正処置を「ポジティブ・アクション」と呼びます。

言葉が知られていないということ以上に、その社会的実態は特に男女間格差の点において世界的にも極めて解消が遅れているという状態です。

それは国際機関からも繰り返し指摘されているのですが、なかなか進みません。

 

政治的な分野で議会における女性議員の数や自治体などの首長の女性数というものもかなり低いものであり、それを積極的に解消しようとする海外の事例も多いのですが、それすらも良くは知られていません。

たまたま議員数をクオータ制(割当制)で決めている国があり、それが紹介されただけのために、その手法の逆不平等性が言われることがありますが、他にも多くの手法がありそれを知らないがために議論が深まらないということもあります。

 

この本では日本の現状を紹介するとともに、海外の実施例を数多く取り上げ、どういう手法ならば諸国で多く定められている憲法での人権問題をクリアできるポジティブ・アクション」になるかということも説明しています。

 

ジュネーブに本部を置く非営利団体世界経済フォーラムが毎年「ジェンダーギャップ・リポート」というものを発表し、各国の男女格差の状況を示しています。

2010年の数字では日本は124か国中94位というものです。

この数字の調査では、教育面、政治面、経済面(給与など)、健康面での男女の格差の程度を調査しそれぞれの順位と総合順位とを出しています。

そこでは健康分野では41位と少し高いのに対し、経済分野108位、政治分野110位、教育が84位と低迷するために総合順位を引き下げています。

 

特に低いのが議会における女性議員の比率と地方自治体の首長の女性比率です。

これは男女格差という問題以前に、議会制度そのものの機能不全や後進性、金権政治選挙制度の問題など、民主制度が低レベルであるということが強く影響しているとも言えます。

相変わらず、三バン政治(地盤・看板・かばん)や後援会・地方組織を基盤とした利益誘導型、男性支配型、世襲制度などが横行しており、その中で女性が政治進出が難しい社会がそのまま残っています。

 

海外の各国でも昔から男女格差が無かったわけではなく、多くの制度の導入の歴史があり徐々に変えられてきました。

アメリカでは男女格差以上に人種間の格差が問題とされ、そのためアファーマティブ・アクションと言う名称で進められてきました。

大学の入学者を人種によって割り振り、黒人を多くしたといったことはよく知られています。

それに対し、逆に不利を被ったとして白人が裁判を起こし制度の違憲性を勝ち取ったという事態も何度も発生しました。

そして徐々に憲法違反にならないような手法というものを取り入れるようになってきます。

 

フランスでも長く男女間の格差は大きく、女性選挙権も認められたのは第二次大戦後の1946年になってからでした。

しかし女性の権利の拡大は着実に進められ、数々の法令を次々と制定しました。

そして女性議員の数を一定以上に増やすためのクオータ制を定めた選挙法を1982年に制定し、女性議員数を30%以上にすることとします。

しかし法律の違憲性を調査する憲法院という機関によりこの法律は違憲だとされたためにクオータ制を変更したパリテという制度での実施となります。

 

政治分野でのポジティブ・アクションではクオータ制の導入というものが各国で行われました。

しかしそれぞれの国の憲法での人権擁護の問題と抵触しないか、すなわち選挙への立候補の権利を男性だというだけで奪われる事態になるのではないかという問題点は繰り返し指摘されてきました。

これには選挙制度の相違も関わり、国によって大きく事情は異なります。

比例代表制を取る場合は政党の候補者名簿に女性を一定数入れさせるという手法が一般的です。

ただし順位が関わる制度の場合低い方に女性を置いたのでは当選はできません。

それを避けるために順位も男女交互にさせるというところもあるようです。

 

また、小選挙区制の場合には少しやっかいなこととなります。

一つの選挙区からは各政党1人しか出られませんので、男女どちらかとなります。

そのため、隣り合った選挙区では性別を異なるものとするといった制度を作ったところもあります。

 

こういった制度を強制した場合はどの国でも違憲性が疑われるようですが、各政党に任せてその内容により政党助成金で差をつけるといった方策をとれば違憲ではないと判断されることが多いようで、その手法を取る国もあるようです。

 

経済界の状況や、学術教育部門でも女性の上位進出が難しいというのは同様か政治よりさらにひどいことかもしれません。

さまざまな政治的な制度整備もわずかながら行われていますが、やはり人々の意識自体に大きな問題がありそうです。

女性は育児や家事に時間を取られ仕事に集中できないというのが伝統的な価値観ですが、そこも徐々に変わっていきつつあるとは言えます。

女性が働きやすい社会は男性も働きやすいということを求めることが必要なのでしょう。

まだまだ日本の夜明けは遠いようです。