爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ppmへの挑戦」大八木義彦著

講談社発行の科学関係の新書、ブルーバックスはすでに2000冊以上が出版されているそうですが、その最初は1963年だったそうです。

本書はそのシリーズの247番目、1974年の発行です。

著者は当時千葉大学教授の大八木さんで、生体内の重金属の分析を専門とし、いくつもの公害事件の解析にも関わったということです。

 

現在では分析装置の高度な発達により、ppmどころかppbやpptといった単位も普通に使われるようになってきましたが、かつては「ppm」という単位すら近寄りがたくおどろおどろしい雰囲気を感じさせました。

これは、特に公害の現場で有害物質の重金属などの濃度を表すのに使われることが多かったからでしょう。

しかし、その頃の理科系学生にとってもそのような分析を行うという経験はほとんどなく、その数字を前に戸惑うばかりでした。

 

おそらく、そういった学生の一人だった頃にppmに挑戦してやろうとしてこの本を読んだのでしょう。

 

そういった状況をよくご存じのようだった著者は、本書も極めて平易な段階から語り始め、分析というものの基礎から説明しています。

 

定性分析とはなにか、定量分析にどうやって進むのか、その中間の半定量分析の意味は何かと、大学の学生実験でもこれほど丁寧な説明はないというほどの書き方です。

 

そして最後には当時の最先端の分析機器の原理の説明まで概略説明して、化学分析の概観を見通せるものとなっています。

 

現在のように高度に分析機器が発達してしまうと、その基礎が忘れられかねない危険性もあるかと思います。

もはや、昔の状態に戻ることはできませんが、それを想像するだけでも役に立つかもしれません。

 

私もその後技術職として就職し、ガスクロや液クロ等の機器分析も担当してようやくppmという検査結果を出すようになりました。

あまりにも一般社会の感覚とずれてしまうような濃度なのですが、数字だけを追うようなことはせず、意味をよく考えたいものです。