著者の宮竹さんは進化生物学者ですが、大学院終了後沖縄県庁に入りそこで10年以上働いた後に大学に戻り研究生活に入ったということで、俗世間のことにも通じているのでしょうか。
進化生物学とは、色々な生物の行動や生態などが進化の必然性で説明がつくということを調べるものですが、その実態は人間の社会の人々の生態とも通じるものがあると言えるようです。
そんなわけで、動物の生態と人間とくにサラリーマン社会での人間関係などを関連付け、分かり易く進化生物学の成果を一般人に説明してやろうという意欲作です。
生物がどのように進化していくかということは、生存競争を勝ち抜いての自然淘汰ということで説明されます。
大切なのは生き残ることだというのが生物の歴史ですが、それはまさにサラリーマン社会で皆が必死に戦っていることと同じだということです。
そして、それを知ってみると生物の世界での「対捕食者戦略」が非常に参考になるのだといえます。
問題の先送り、擬態、寄生、そういった生物の生き残り戦略はサラリーマンの生き残りとどう重なるのでしょうか。
体長5mmのミジンコは捕食者が居ることを水の臭いで感づくと体に角を生やして変身し、食べられにくくすることで生き延びようとします。
それではなぜ、初めから角を生やした形で生まれてこないのかというと、角を生やした形態のミジンコは成長が遅く増殖もしづらいからだそうです。
生物は防御が必要な時だけ防衛のスイッチを入れるようになっています。
必要ない時は防衛もしないことが有利に働きます。
捕食者が近づいた時に動かなくなる生物はよく見られます。
そのような「死んだふり」作戦が本当に有効なのかどうか。
著者はコクヌストモドキという昆虫を使ってそれを証明しました。
この虫は採取した地域により死んだマネの時間の長いタイプと短いタイプがあることが分かっていました。
その特徴のはっきりとした系統を育種し、「ロング」系統と「ショート」系統を確立しました。
そして、コクヌストモドキの天敵であるハエトリグモも採集し、これを使って実験をしました。
コクヌストモドキとハエトリグモを同じシャーレに入れると、クモは飛び掛かって噛みつくのですが、その後一旦離します。
ここでロング系統は死んだマネをするのですが、ショート系統はそれをせずに動き続けます。
するとクモは動く虫は再度噛みついて食べてしまいますが、死んだマネをする虫はもう噛もうとせず、その虫は生き延びるのです。
この結果を著者たちはNature誌に投稿し掲載されました。
ところが、それに対してイギリスの大学教授が、「これは死にマネのためではなく、”嫌な臭いを発する”ためではないか」と指摘し、著者は「ケンカを売られた」と感じたそうです。
まあ、それからさらに実験を重ねて理論を確実にしていったわけなので、科学の発展にはつながったと言えるでしょう。
有力者のそばにはそのおこぼれにあずかろうという大勢の人がすり寄るということは良くあることです。
しかし、それは実は動物の多くで見られることで、寄生(パラサイト)という生存戦略と言えます。
弱者たちが必死で生き延びるための戦略が寄生ということです。
弱い生物たちは魚や鳥でよくみられるように大きな群れを作っています。
これは別に彼らが皆仲睦まじく過ごそうとしているわけではありません。
弱者が「利己的(セルフィッシュ)」に振る舞うことがこのような大きな群れとなることにつながります。
2羽の小鳥が空を飛んでいると、もう1羽の同種の小鳥はその2羽の間に入りたがります。
これは、猛禽類などが襲ってくると危ないのは一番外側の鳥であり、内側ほど安全なためです。
そのため、そういった群れが形作られると次々と内側を目指して新たな鳥が入ってきて結局は巨大な群れになるのです。
これを「利己的な群れ」と呼ぶそうです。
こういった生物の生存戦略を知ることが、サラリーマン社会での生き残りにつながるでしょうか。
もう引退した私にとってはどうでも良いことなんですが。