爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「セレンゲティ・ルール 生命はいかに調節されるか」ショーン・B・キャロル著

セレンゲティとはタンザニアの国立公園で、火山のカルデラの中にあるために他との行き来が難しくそこの独自の生態系が維持されています。

そこでは食物連鎖の系統が形成され有機物を分解する菌類や昆虫、日光で光合成する植物、植物を食べる草食動物、草食動物を食べる肉食動物が多少の増減を繰り返しながら長期間バランスを取り生存しています。

そこには何らかの制御機構があるかのようです。

それをセレンゲティ・ルールと名付け、その他の生態系ばかりでなく、生体内の制御まで例を引きながら説明していきます。

 

ただし生態系の話の中にいきなり生物の代謝制御やガン化についての話が飛び込んでくるのは少し分かりにくいのでは。

 

著者はセレンゲティ公園を例にとりましたが、こういった生態系の制御は地球のあちこちで見られたものでした。

しかし人間が生態系の通常の制御の限度を越えて増殖してしまい、他の生物の領域を崩しそればかりか直接に大型動物などを仕留めるといったことをしたために各地の生態系が崩れてしまっています。

人間の飼っている家畜を襲うといってはオオカミを絶滅させてしまいました。

ところがオオカミが絶滅すれば草食動物の繁茂が激しくなりそうなるとその食物である植物を食べ尽くすことになります。

その地域のある植物が急激に絶滅することで、その原因がオオカミを駆除したことだと気づいても遅いわけです。

そういった地域にオオカミを放つという試験がされたこともありました。

家畜が襲われる事件が無いわけではないのですが、植生は元に近づきました。

 

生態系の制御といっても草食動物はそのために納得して食べられているわけではありません。

アフリカのサバンナに住むヌ―という動物はライオンやハイエナに捕食されるのですが、その中にも2種類のグループがあり、セレンゲティの中を大きく巡回する「移動性」のヌ―と、「定住性」のヌ―とが分かれています。

捕食者であるライオンやハイエナは「定住性」が強いため、移動性ヌ―は捕食者が多いところからはすぐに離れるのですが、定住性ヌ―はそのままそこに止まります。

そのため、定住性の群れでは全個体の10%が捕食されるのですが、移動性ヌ―では1%程度だそうです。

 

世界の各地では生物の「異常発生」という現象が起きます。

アメリカのエリー湖で大量発生した藻のミクロキスティス、東南アジアで稲を食い尽くすトビイロウンカ、北米の海の幸であるイタヤガイを食い尽くしたウシバナトビエイ

こういった大量発生した生物が大きな環境異常を引き起こします。

しかしこのような生物が大量発生する影にはその生物を捕食していた何らかの生物が居なくなったという原因があります。

そのミッシングリンクはなにか。

ウシバナトビエイはどうやら大型のサメにより捕食されていたようです。

しかしそのサメが駆除されてしまったためにエイが異常増殖、それがイタヤガイを捕食してしまい絶滅に導きました。

ウンカはクモ類により捕食されています。

たとえばコモリグモというクモは多量のウンカとその幼虫を食べます。

しかしこういったクモ類やその他のウンカの天敵が農薬散布で死滅してしまいました。

そのためにウンカの異常発生につながったと見られます。

 

このようないったん崩れた生態系の再生の試みが行われています。

ウィスコンシン州のメンドータ湖では藻類が大量発生し魚類が住めなくなりました。

そのため、魚の幼魚を放流することで生態系再生の試みがなされ、ある程度の復活がなされたそうです。

また、イエローストーン国立公園内ではオオカミの絶滅によりヘラジカの一種エルクが大量に増えそれが草木を食べることで植生が少なくなっていきました。

それを回復するためにオオカミを放つことが計画されました。

しかしこれは魚を放流するようには簡単に行かず、牧畜業者や住民が危険視する中で訴訟ともなりましたが、なんとか実施に至ります。

その結果はやはりエルクの減少と植生の復活が見られています。

 

部分的な生態系復活という試みは為されるのでしょうが、とにかく人間の異常増殖が一番の問題でしょう。