爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「面白くて眠れなくなる進化論」長谷川英祐著

「面白くて眠れなくなる」というシリーズの本は科学の色々な分野について一般向けに分かりやすく専門家が説明するというものですが、この回の「進化論」については他にも「面白くて眠れなくなる生物学」なども書いている進化生物学者の長谷川さんが執筆しました。

 

進化論の誕生からその進歩、そして現在から未来まで説明していますが、さすがに未来の部分は少々難しい内容となったようです。

 

進化論以前の世界は宗教ですべて解釈しようとしたもので、「神の御業を見よ」とすべての生物の存在は神の創造によるとしていました。

そこにラマルクの用不用説、そしてダーウィンが本命の自然選択説を発表し、進化論が始まっていくわけです。

 

そういった初期の経過は類書でも多く記述され知られていることでしょうから、最近の、そして未来の進化論のみ触れます。

 

ダーウィンは進化というものを論じましたが、まだ進化の本体が何かということは分かっていませんでした。

遺伝子と言われるもの、今ではDNAというのがその意味も分からずに使われることも多くなりましたが、それが遺伝の本体であるということ、そしてその複製が遺伝そのものであること、さらに複製の際にミスが起こることが進化であることも判ってきます。

これを「総合説」と呼びます。

 

しかしすべてが説明されているというわけではありません。

DNAの複製ミス、点突然変異ですが、それだけで進化が説明できはしません。

ウイルスが大きなDNAの組み換えをするということも判ってきます。

真核生物の細胞内にあるミトコンドリアという器官は実はかつては別の生物であり、それが取り込まれてしまったということも判ります。

これは植物細胞の葉緑体でも同様でした。

これも進化だったと言えます。

 

これらは細胞内に囲い込まれているために明確な共生となっていますが、細胞外であっても共生しているものはたくさんあります。

動物の腸内細菌というものも明らかにその動物と共生していると言わなければならず、例えば草食動物は腸内細菌無しには生存することもできません。

共生しているということは共進化しているとも言えることです。

 

本書最後の「進化論の未来」のコーナーには、現在まさに実験が行われ論文が出されていることが触れられていますが、それぞれ簡単に片付くものでもなさそうで、しばらくは進化学者の方々も仕事がたくさんありそうです。

 

その中で興味深いのは、単純な適応だけでは説明できない事例は「リスク管理」が関わるのではないかということです。

カブトエビという乾燥地帯の水たまりに住む節足動物は、卵が雨が降って湿ると孵化するのですが、それが「1回の雨で孵化する」わけではなく「2回、3回」と色々な孵化条件が見られ、しかもそれが混在しているそうです。

これは、1回だけの降雨で全部が孵化してしまうとその後降雨が続かず乾燥してしまえば卵が全滅してしまうからだと考えられます。(孵化しない卵は乾燥状態でも生き続けられる)

つまり、生命の継続ということを第一にこのような戦略を取っているということです。

 

また、多くの生物で見られる「有性生殖」もそれがなぜ進化の過程で生まれてきたのかが分かっていないそうです。

これはかなり「無駄」なことのように見えます。

しかしそれでも無駄を冒すのは何らかの有利さがあるのでしょうが、はっきり結論が出ていません。

 

いやはや、進化というものはまだまだ知らないことがたくさん隠れているようです。