爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「エネルギー400年史 薪から石炭、石油、原子力、再生可能エネルギーまで」リチャード・ローズ著

今の人類文明が巨大なエネルギー消費に依存したシステムであるということは、これまでにもこのブログで強調してきましたが、その「人類のエネルギー依存に向かっていく過程」を非常に細かくたどってくれたのが本書です。

 

とはいえ、そこにはほとんど歴史的事実を書きとどめるのみで、そこに批判や科学的な評価は書かれておらず、それは読者に任せられているということでしょう。

 

非常に細かいところまで表現されているのは、ここまで書くかというところで「ジェームズワットは当時婚約していた。相手は母方の従妹マーガレット・ミラーこと通称ペギーで、ワットは子供の頃からよく知っていた」

「1854年、出産の際に妻を亡くしたエドウィン・ドレーク(石油の採掘に成功した)は翌年幼い息子を連れてこのホテルに移ってきた。長身ですらりとした体型、黒いあごひげをたくわえていた」

ほんとかいなと思わせるものです。

 

しかし、エネルギーの担い手が薪から石炭、石油、そして原子力再生可能エネルギーと移ってきたということは何となくイメージとしてあったものの、その歴史は決してまっすぐなものではなく、行ったり来たり、ほんのちょっとしたきっかけで動いたり、あえなく潰れたりと、色々なことが起きた末での現在だということに、今更ながら気づかされました。

 

石炭があることは昔から知られていたものの、その臭気のひどさで木材が豊富な間は使われていなかったというのも事実ですが、いざ薪が底をつくとあっという間に石炭頼りになってしまい、ばい煙だらけ煤だらけとなって死者が続出というのも想像するだけでもぞっとするような話です。

 

蒸気機関も最初は石炭の採掘現場での地下水除去のためにやむを得ず開発が進みました。

その用には馬が使われていたのですが、戦争のために馬は徴用されていなくなり、なんとか工夫に工夫を重ねて実用化されて行きました。

それでも最初は過熱蒸気の圧力を使うのではなく、加熱した蒸気を冷却して復水することによる大気圧の復元を動力源としていたそうです。

それでは、ほとんど力は出なかったでしょう。

 

自動車の歴史も、一直線にガソリン内燃機関に決まったのではなく、創世期には蒸気自動車ばかりでなく、電気自動車も盛んに施策されたようです。

それでもガソリンを用いる内燃機関が勝利しました。

ただし、ノッキングの問題は非常に大きかったのですが、最初はアンチノック剤としてはトウモロコシ由来のアルコールを混ぜていたそうです。

しかし、これも経済界の情勢からトウモロコシが高騰し、仕方なく他の薬剤をいろいろと試して、ようやくテトラエチル鉛に決まったという経緯があったそうです。

しかし、それは環境にとっては最悪のものであり、鉛中毒が大きな問題となりました。

ただし、これが本当に鉛中毒かどうかということも激しい論争となり、真実を明らかにしようという科学者は御用学者に猛攻撃を受けたという、どこでもあるような話がここにもありました。

 

後半部はエネルギーの暗い一面が大きく取り上げられています。

大気汚染などの環境悪化、原子力発電の引き起こした事故、資源の枯渇と人口過剰。

そして、未来の問題として風力発電太陽光発電もとりあげられていますが、それでバラ色とは考えていないようで、書き方も著者はそれらにあまり期待を持っていないことが分かります。

 

まあ、現代のエネルギー問題がどのような経緯で出来てきたかということを知る意味はあったかもしれませんが、この先をどうするかということには役立ちそうもありませんでした。

おそらく、それを書くつもりはなかったということでしょう。