とは言っても、「カラオケを上手に歌いたい」という目的とは全く違う本です。
著者のミラーさんは、オペラ歌手として活躍した後に声楽の教育者となったという人で、多くの弟子を育てたのですが、また他の声楽教師などから教える上での疑問点に答えるといった活動もされてきており、多くの人々から尋ねられる点についてここで一つまとめてしまおうと思い立ったようです。
そんなわけで、この本に書かれていることはプロのクラシック歌手を目指す人達を育てる教育者が持つ様々な疑問を解いていくというものです。
そのため、声帯や気道の解剖学的な知識から、歌う際の姿勢、身体全体を使って音を共鳴させるやり方、各国の言語の発音の仕方など、非常に高度な内容を含んでいます。
そのため、多くの点ではよく分からなかったというのが本当のところです。
著者のミラー氏はアメリカ生まれですがヨーロッパでも活躍しています。
もちろん、オペラやオラトリオの言語としてはイタリア語、フランス語、ドイツ語などが使われているために、それらの言語にも精通しており、歌唱の中でどのように発音するかという点も十分に知っているようです。
フランス語の鼻母音は他の言語と比べると特異なものですが、それをどのように歌うかという点にも特色がありそうです。
アメリカの声楽を学ぶ若者たちの中には、非常に「ひどい声で話す」人が多いそうです。
特に女性がひどいようですが、これはアメリカ特有の英語を話す際の癖が左右しています。
鼻にかけられた鼻音性の強い発音がそれで、当人たちは魅力的でセクシーだと考えているようですが、実際は耳障りで音色をぶち壊すそうです。
ポップスを歌うならばまだ許容されるのですが、クラシックを歌おうとすると相当な矯正が必要になるとか。
イタリアの古い格言に「発音が良い人は歌もうまい」というのがあるそうです。
なお、「黒人歌手に特有の音色があるか」という質問には、ミラー氏は否定しています。
発音などの癖を修正する訓練を十分に施せば、人種による音色の差というものは意識されないそうです。
目をつぶって聞いてその人が白人か黒人かを当てるというのはそれほど簡単なことではないようです。
ちょっと、参考にするには高度過ぎる内容の本でした。