爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「ヴォイス・ケア・ブック 声を使うすべての人のために」ガーフィールド・デイヴィス、アンソニー・ヤーン著

何度もしつこく書いていますが、私のもう一つの趣味は合唱であり、素人集団ながら地元の合唱団で歌っています。

喉の痛みなど、声の悩みというものも、やはり気になります。

 

著者のお二人は、イギリスとアメリカで耳鼻咽喉科の医師として活躍され、特に歌手などの咽喉の治療や指導に当たってこられたという方々です。

日本ではあまり数多くはないようですが、音声専門の医師という方々が欧米では活躍されているようで、本書にも「音声専門医に相談する」という解決策が何度も書かれています。

 

著者の患者にはクラシック、ポピュラー双方の歌手が含まれているようですが、クラシックの特にオペラ歌手のように、十分な訓練をして自然な発声をする場合にはかなり持つ「喉」も、ポピュラー歌手では訓練不足と特殊な発声のためにすぐに駄目になってしまうこともあります。

 

本書では、そのような発声の仕方による影響や、かかりやすい咽喉の疾病の事例、治療の実例とその影響、歌手の身体への様々な負担など、喉を使って仕事をする人々が気をつけておくべきことが書かれています。

 

特に、「職業歌手」の医学管理といったところは、歌えなくなったら生活もできなくなる人々は十分に心得ておくべき事柄でしょう。

 

私のような素人合唱団では、そこまで注意することは無いのかもしれませんが、まあ気をつけておくに越したことはないでしょう。

 

 

ポピュラー(ポップス)音楽歌手についての注意点というのは興味深いところです。

クラシック歌手のように厳しい基礎訓練がなされず、他のポップス歌手を真似て発声テクニックを身につけることが多いため、声を酷使し致命的なダメージを受けることも多いとか。

さらに、オペラ歌手と異なりマイクを使用するのが普通なため、生声の能力をはるかに越えるような歌い方をしてしまうこともあり、障害を受けることが多いようです。

そのような結果として咽頭に小結節やポリープができるということも多いのですが、逆にそのせいで声質に特徴が生まれるということもあり、危機感を感じるよりはそれを利用するということもあるようです。

ビング・クロスビーの左右の声帯には結節があったというのは有名なようです。

 

そういう実例は嫌というほど見てきたように思います。

 

また、「良い歌い方」というのは何かと聞かれた時に「それはチケットを買ってもらえるような歌い方だ」と応えた人もいたとか。

身体、特に咽喉に無理のない歌い方が「良い歌い方」だと思うのが普通でしょうが、実はプロの歌い手にとってはそれだけでは満点ではなく「売れる歌い方」というのが最上なのでしょう。

クラシックではありえないでしょが、ポップスの場合では、ハスキー・荒い・曇った・気息音・二重音などの本来ならば欠点となるような声質が売り物となることも多いようです。

 

職業歌手の生活では、さらに声に負担をかけるようなことが次々と起こります。

公演の連続で、飛行機の移動というのも多いでしょうが、飛行機の環境というものは声を酷使するもので、騒音の中での会話も負担になりますし、過度の乾燥も辛いものです。

さらに、公演前後の宴会というものも付き物で、酒や煙草、場合によっては麻薬など、多くの身体を悪くする誘惑に満ちています。

声を最上に保つような身体の状態維持というものが難しくなります。

歌手を職業とするということは、声が出せなくなったら終わりということでもあります。

 

なかなか、厳しいことばかりでした。