内閣支持率というものが時々発表され、どうやら政権もそれをかなり気にしているようです。
また、「憲法改正について」とか、「自衛隊派遣について」とか、何か政治上の問題があるとそれに対する国民の意見を知るためと称し世論調査が実施され発表されます。
どのような調査でも、それを実施した機関(新聞社等)が違うと数字が違うということも起きますし、質問の仕方が論議を呼ぶこともあります。
こういった、世論調査というものについて、NHKでこれを担当する部署のNHK放送文化研究所の岩本さんが様々な見地から書かれたものです。
民主主義というものは、選挙というもので動きますが、当選した首長や議員はある程度の任期がありその間はその仕事を続けることになります。
しかし、政治上の問題は常に起こり続けておりその度毎に選挙をするわけにも行きません。
世論調査というのは、それを補完するような役割を果たすことができるものとも言えます。
戦前の日本では世論を聞き政治を進めるなどという体制にはなっていませんでした。
敗戦後に日本を統治したGHQは日本の非軍事化と民主化を強力に推し進めました。
そのため、世論調査というものも必要であり実施を求められましたが、政府自体がそれをやるわけにはいかず、新聞社や放送局が実施することになりました。
とはいえ、その実施のノウハウも無くGHQが初歩から教えるようにして始まったそうです。
世論調査の要素として、調査のデザイン、サンプリング、面接方法、分析手法が重要ですが、これにGHQの組織CIEのメンバーと、主に新聞社が協力し調査の方法を確立していきました。
世論調査の進歩は主にアメリカの選挙結果予測とともに発達してきました。
すでに1930年代から大統領選挙の結果予測を大々的に実施していたのですが、1936年の選挙は現職のルーズベルト大統領と共和党のランドン候補の一騎打ちでした。
当時、選挙結果予測で最も注目されていたのが、雑誌「リテラリー・ダイジェスト」が実施した予測調査で、実に1916年選挙から5回連続で結果を的中させていました。
そのやり方は、実に1000万人以上に往復はがきを送って返送してもらうというもので、200万人以上の回答を得たそうです。
その予測では、ランドン候補の勝利となりました。
しかし、ギャラップ社はわずか3000人の回答でルーズベルト勝利を予測しました。
結果はルーズベルト再選でした。
これは、調査対象の選び方によるズレだったのです。
リテラリーの対象は、当時その雑誌を購読している読者や、電話を持っている人、自動車を持っている人といった、富裕層だったのです。
ルーズベルトのニューディール政策は労働者に職業を与えるという意味が強く、富裕層には評判が悪かったものです。そのため、リテラリーの調査には偏移がかかっていました。
しかし、ギャラップは調査対象がアメリカの有権者全体の縮図となるように考えて選びました。そのためにより正確なサンプリングとなったということです。
とはいえ、そのギャラップ社も1948年の選挙では予測を誤りトルーマン敗戦を予告したものの再選を果たしました。
ギャラップ社得意の「割当法」によるサンプリングを実施したつもりが、調査者の個人的な判断が集積して狂いが出たものです。
その後、日本の選挙結果予測では電話によるRDD法の調査が普及したために、選挙期間内に何度でも実施できるようになり、結果を刻々と予測していけるようになりました。
また、事前の世論調査でなく出口調査実施による結果の速報という方向へも進歩し、あの「当確予想」のスピード競争になります。
アメリカの方法にならい1993年から始められた出口調査は、最初は聞いた人に怒られるということも頻発したそうですが、徐々に浸透していきます。
なお、出口調査には「公明バイアス」と「おばあちゃんバイアス」というものがあるそうです。
これは、公明党支持者は期日前投票をするので、出口調査では低く出るということ、そしてお年寄りの女性は調査を拒否することが多いので、出口調査の数字に入りにくいという傾向を言います。
このようなバイアスも経験上どの程度のものかを試算して補正するようになってきました。
RDD法というのは、コンピュータの発達により現実化したものですが、ランダムに発生させた電話番号に電話して調査するというもので、以前の面接法や質問表送付法に比べてはるかに事前の準備が楽で、コストもかからず、緊急の調査にも対応可能です。
しかし、今の所固定電話のみなので、それが一般家庭の電話か、事業所などの電話かの区別もできず、また一般家庭の場合平日昼間にかけると(今では留守が多いが)主婦が出ることが多かったという特徴があります。
この辺もできるだけ平均化するために電話を複数回かけるとか、家族の構成を聞き、誰に聞くかを決めるといった補正策が必要でした。
現在では、RDD法の最大の弱点は携帯電話だけの人を捉えきれない、すなわち若年層を対象と出来ないことです。
そのため、携帯電話の番号を使うという方策も考えられていますが、今度は対象地域が不明となり地域限定ができなくなります。
また、携帯の場合は知らない番号からの電話には出ないという人も多く、特に女性はその傾向が強いので女性の捕捉率が低くなります。
韓国ではすでに携帯対象のRDD法を採用していますが、やはり若干の偏移が出てくるようです。
世論調査の問題点として、調査する側の立場によって質問の仕方が変わり、結果も違ってくるという問題があります。
数年前に「集団的自衛権行使」についての世論調査を各社が実施したのですが、読売新聞では「71%容認」、朝日新聞では「行使容認反対63%」とまったく逆の結果が出てしまいました。
これは質問方法に問題があり、特に「中間的選択肢」を入れることによって、大きく結果を左右することができます。
例えば、上記読売新聞は「全面的に使えるようにすべきだ」が7.3%、「必要最小限度で使えるようにすべきだ」が64.1%、「使えるようにすべきではない」が25.5%で、前の2つを合わせて71%を「容認」と判断しています。
一方の朝日新聞は、答えは2つのみで「行使できない立場を維持する」が63%、「行使できるようにする」が29%でした。
このように、世論調査と言いながら「世論操作」をしているようなのが、現在の世論調査であるという一面もあります。
「場合によっては」「慎重に検討すれば」「必要最小限の」「事情があれば」といったものを挙げています。
まさに、上記の読売新聞調査はこのタブーを踏みにじっています。
さらに、日本人は特に「中間的選択肢」を好むという性質が強いようです。
3つないし4つの選択肢を示すと中間のものを選ぶ傾向が他国と比べて強いそうです。
インターネットを用いる調査も、今後は増えてきそうですが、これもサンプリングが公平であるとは言えず難しいもののようです。
しかし、これを無視していてはこれからは調査が成り立たないことにもなりそうで、さらに検討が必要となっています。
世論調査自体が、現在では危機に直面しているとも言える状況だそうです。
しかし、世論調査は我々の声を伝える武器にもなるものです。なんとか多くの人々にその意識を強く持たせ、より良い世論調査を確立していく必要があります。