爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

微生物の話 第3回 Zymomonas mobilis

第3回 Zymomonas mobilis (ザイモモナス モビリス)

 

工場勤務も長くなりそこで結婚したのですが、その直後に研究所に転勤となりました。

研究所での最初の仕事は「アルコール製造の効率化」というものでした。

 

当時はまだ石油ショックの痛手の記憶もまだ新しく、燃料用のアルコールというものの必要性が強く叫ばれていた(一部で)時代でした。

 

(最近のバイオエタノール騒動など、今のエネルギーショックで始まったかのように思う人も多いかもしれませんが、実は昔からあった話です。ついでに言えば、その頃から多くの研究者が携わり進めてきた研究も成果はほとんど出ていません)

 

勤めていた会社は「醸造用アルコール」は製造していたものの、それはほとんど不純物を含まない純エタノールというもので、非常に製造コストが高いものでした。

 

ガソリンの代わりになるような燃料用アルコールにはそのような高品質は不要で、とにかく安く作れば良いというものです。

そのために、様々な発酵装置も開発される一方、これまで通常使われていた酵母(Saccharomyces)ではなく、アルコール生産力を持つ「細菌(バクテリア)」を使ってやろうという研究も並行して行われました。

 

真核生物である酵母は細胞構造も複雑であり、分裂増殖にも時間がかかりエネルギーも消費するということがあります。その一方で、原核生物バクテリアは単純な構造で分裂増殖もスピーディ、増殖に費やすエネルギーも少なくてすむので有利ではという発想でした。

そこで選択された微生物が Zymomonas mobilis という種の菌でした。

 

こんな菌の名などほとんど知られていないでしょうが、元々はメキシコやアフリカの発酵酒の汚染菌から分離されたものでした。

グラム陰性桿菌で、始めはPseudomonasに近い菌種と考えられていたのですが、その後独立した菌種と分類されました。

 見たところは何も特別なものが感じられない桿菌(棒状の細胞の菌)でした。

 

細菌の中ではアルコール生産能が高いものでした。ただし、自身の作ったアルコールが高い濃度になるとそれで殺菌されて死んでしまうということがあり、総生産量では酵母にはまだはるかに及ばないものでした。

しかしそのアルコール生産速度の速さなど利点もあることから、なんとか使えないかということでアルコール耐性が強い変異株を取ろうとしたり、高アルコール環境に慣らしたりと言った開発研究を行なったのですが、結局は大したものは取れずに終わってしまいました。

 

このあたりの研究も、大学卒業以来の工場勤務ですっかり鈍っていた頭には難しいばかりで、今思い返しても後悔ばかりです。もう少しできることは無かったかと感じます。