爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「なぜ少数派に政治が動かされるのか?多数決民主主義の幻想」平智之著

最近、多数決というものと民主主義との関わりの根源的問題についての本を読みました。それは社会的選択論というものでした。

「多数決を疑う 社会的選択理論とは何か」坂井豊貴著 - 爽風上々のブログ

今回読んだ本も題名から見ればそれと同様の分野のようでしたが、内容は若干異なり、原発反対派が多数を占めるのになぜ再稼働されてしまうのかという問題や、経済弱者が多いにもかかわらず、それを扱う政策ではなく大企業に利する政策になってしまうのかといった、現代の政策についての問題提起となっています。

 

それというのも、著者の平さんはタレントとして活躍したのち、民主党が政権を取った2009年の総選挙の時に衆議院議員として当選し政権内で活動したものの、原発の再稼働に政権が動き出した時にそれに反対して離党したという経歴の持ち主だからということのようです。

 

原発を積極的に推進しようと言う人々は今でもそれほど多数であるわけではありません。反原発デモに参加するとまでは言わなくても再稼働には反対という人が過半数であるはずです。

しかし、それらの声は政府には届きません。それが現在の官僚依存体制であると政権内部を眺めてきた著者は喝破します。

他の問題でも、国民の大多数であるはずの中小企業の人々や個人事業主、社会的弱者の声は聞かれることがなく、数の上では少数の一部の特権階級、銀行や大企業、労働者でも大企業の労働組合員などの主張ばかりが政策に反映されてしまいます。

 

これは日本の多数派というものが、物言わぬ多数派であり、本来の自分の意見は持っていはいても強く主張することなく、少数派の意見に消極的に賛成するからです。著者は彼らを「ネガティブ・サイレント・マジョリティー」と呼んでいます。

ネガティブ・サイレント・マジョリティーに本当に自分たちのためになる政治になるように声を上げさせるということは非常に困難なことですが、それをしなければ日本の政治は変わらないということです。そのためにも抜本的な議論を広く理解させることが必要であり、そのためにこの本を書かれたそうです。

 

個別の政策に対して著者の取り上げている例にはあまり賛成出来ないものもありますが、(例えば富裕者増税をしてもしょうがないとか)基本的に多数派のためにならない政策が実施されているという実情は間違いないものと思います。

ただし、それを皆に理解させれば本当に政治が変わるのかということは疑問を持たざるを得ません。著者の信じるところを広めれば皆納得して政治を変えるでしょうか。

この辺のところは政治家と学者の議論の差かも知れません。