一部の人からは忌み嫌われている孫崎さんの本ですが、かなり真実に近いものを含んでいるように思います。
本書は戦後の政治の中で、アメリカからの自主独立を目指したために潰されてしまった政治家について書かれています。
詳述されているのは、岸信介、田中角栄、小沢一郎で、巻末に挙げられている「アメリカと戦った12人の政治家」にはその他に鳩山一郎、石橋湛山、重光葵、芦田均、佐藤栄作、竹下登、梶山静六、橋本龍太郎、鳩山由紀夫が並べられています。
これらの人々は政権を担った側でありながら、アメリカの覇権に逆らうような政策を取った(取ろうとした)ことにより様々な手段で陥れられました。
主に、日本駐留米軍の削減と中国への接近という方向に進んだ時にアメリカの総攻撃を受けるようです。
岸信介がここに挙げられているのは意外でした。
一般には吉田茂の方が毅然とアメリカと対したかのように考えられていますが、実際は吉田はアメリカの政策に忠実に従っただけで日本の自主的行動とは正反対だったようです。
岸は戦犯からの復帰ということではアメリカの力を借りたようですが、その後安保条約の日本有利に向ける改定と中国接近を狙いました。
そのために安保反対のデモを利用して岸退陣を画策した勢力により葬られたということです。
田中角栄が葬られたのは「石油の独自外交」を進めたためという説が中曽根康弘や田原総一朗により語られているそうですが、実は本当の理由はやはり「日中国交正常化」であろうと言う著者の意見です。
1972年にニクソンが電撃的に訪中しますが、これは日本には何の協議もなく行われました。その理由はそれ以前の佐藤栄作首相の日米繊維交渉での背信行為に対する報復であったということです。
しかし、佐藤退陣の後に首相になった田中角栄はこの報復行為に逆転の手段を実施します。
1972年の9月、ニクソン訪中のわずか7ヶ月後に今度は田中が訪中、しかも一気に国交正常化まで行いアメリカの先手を取ったわけです。
その結果、田中追い落としのスイッチが入り、立花隆の「田中角栄研究」から始まる「田中金脈」総攻撃が始まり、メディアと財界そろっての田中降ろしとなります。
さらにロッキード事件という異例ずくめの策謀により息の根を止められました。
小沢一郎も始めから自主派であったわけではなく、最初はアメリカの走狗とも言える立場だったのですが、田中の番頭であった小沢はその田中降ろしの一部始終を目の当たりにし対米自主に転じます。
2003年に民主党に合流した頃から「米軍は第7艦隊だけで十分」といった発言をして在日米軍不要論を唱え、さらに政権奪取時には中国への訪問まで行います。
その結果、各界からの露骨な総攻撃を浴びることになり、何度も繰り返される検察審査会の決定などの結果政権からの離脱を強いられる事になります。
岸信介の時にはまだ私も幼児、田中角栄は大学時代であまり良くわかっていませんでした。
しかし、小沢追い落としの経過は良く見ていましたので、なぜこのようなことになるのかと感じていましたが、本書の内容でよく分かった気がします。
アメリカ追随派には財界やマスコミの大多数が含まれていますので、報道もその傾向が強いものでした。それで国民もまんまと嵌められたことになります。
現在では官僚もマスコミもほとんどが対米追随派のみに占められたそうです。
本書出版時は民主党政権末期の野田政権時ですが、この野田というのがこれまでにないほどの対米追随だそうです。自民党政権では少なくとも対米追随であることをカモフラージュしようと言うことはしていたのですが、野田はそれすらしていないとか。
しかし、岸信介が対米自主派というのはやはり信じられません。その祖父を持つあの安倍晋三が今や最大の対米追随派となっているのはなんででしょうか。
それでも日本で長期政権を成したのは対米追随派だけで、自主派はすべて短期で葬り去られたそうです。安倍政権も長くなりそうです。