爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「石油文明はなぜ終わるか 低エネルギー社会への構造転換」田村八洲夫著

著者の田村さんはNPO法人もったいない学会の副会長で、もったいない学会のホームページのコラムでは数々の文章を発表されており、そこではあれこれ読ませていただいていました。しかし、今回たまたま都会の方に出て行く用事があり、大きな書店で本を見ていたところ、たまたま田村さんの著書を発見し、喜んで購入して読ませて頂きました。

NPO法人もったいない学会とは、オイルピーク説という石油供給の減少に関する学説を基に、その後の世界の中でどのような社会を作っていくべきかということを論じる場として、会長の東大名誉教授石井良徳先生のもとに多くの専門家などが集まったもので、その後の社会はどうしても「もったいない」というキーワードが必要であろうと言う考えでそのような名称となったということです。
石井会長も東京大学で研究を始める前には、石油開発企業で油田探査の経験もあったということですが、今回本書で著者の田村さんの経歴も拝見したところ、田村さんもやはり石油開発関連の企業での業務経験があるそうです。机上だけでの論議だけでない、現場の見方と言うものも基盤にあるということが改めて確認できました。

本書は石油をはじめとするエネルギー源について、広く文明論から個々のエネルギーの可能性まで論じています。私自身(筆者)もこのブログなどで拙いエネルギー文明論などというものも書いていますが、それとほとんど共通した認識のもとに書かれていますが、私の文章などは足元にも寄れないほどに精密なデータを基にした議論で、非常に説得力の強いものになっていると感じます。

石油の価格が非常に高いまま推移しているということは誰でも分かっていると思いますが、この先も続いていくのかどうかということは深く考えてないようにするのが日本人全般の普通の態度のようです。時にはシェールガスとかメタンハイドレートなどといったニュースが入り、たぶん大丈夫だろうと根拠の薄い安心感も流れていますが、本書ではそのような非在来型石油をハードオイル、以前の良質原油と言われるものをイージーオイルと呼び、安価で良質な原油で築かれてきたのが現代文明であり、そのようなイージーオイルはもはや残り少ないと言うことを明快に述べています。たとえ、量的には存在していたとしても質の悪いシェールガスのようなものがいくらあってもそれで文明を支えることはできないと言うことです。

それは、エネルギー資源の持つエントロピーと、エネルギー収支比という基本的な性質によって決まってきます。エネルギーが濃く濃縮されている良質原油はエントロピーが低いためにエネルギー収支比も高く、安価で使いやすいエネルギー源だったのですが、そういったものはこれまでに相当量を使い果たしてしまったそうです。そうなると、今後の社会の形も変化しなければならないのは当然でしょう。

このように、石油の供給がもはや段々と縮小していくという「オイルピーク」後の世界では、経済成長などというものはまったく不可能になっていくのは当然です。それよりもエネルギーの取り合いで戦争などにならないとも限りません。中国の今の状態もすでにそれを具現化しているのかもしれません。

本書著者が強調しているように、オイルピーク後の低エネルギー社会はその文明の形を大きく変化させなければ生き残ることはできません。原発、水素、太陽光など、不十分なエネルギー源への幻想は早く捨て、現実にできることをはやく始めることが大切なことだと思います。

今後もいろいろと参考にさせてもらうことが多い本だと感じます。