人権というものはほんの少し前まではほとんど無いと言えるものだったのですが、近代になり徐々に重要視されるようになり、現代に至ってかなり普遍的なものとなってきました。
しかしまだまだ世界には人権がほとんど認められない地域もあり、また一見してそれが尊重されているように装う社会でもその侵害が続いていることもあります。
この本では歴史的な人権の推移、個人と集団の権利の前進と推移、そして新しい権利の獲得など、人権全般についての世界の状況を詳細な地図とデータで判りやすく提示しています。
なお、この本の著者はフランス人でやはり欧米についての記述が中心となりますが、人権について問題が多いのはアフリカや中東、アジアであり、そこについての記述も多数あります。
日本はどうなのかと思いますが、地図でも右の端、色分けで図持してあっても小さすぎて何色かも判りにくいといったもので、まあさほど著者の興味をひくものではなかったのかもしれません。
本書最初は古代からの奴隷制についての記述から始まりますが、現代で奴隷と言って初めに頭に浮かぶような黒人奴隷というものは古代では一般的ではありませんでした。
戦争敗者や破産者など、身近な存在で人種としてもさほど離れていない者を奴隷としていたようです。
制度として最も奴隷制を確立したのは古代ギリシアと古代ローマですが、その後徐々に奴隷制度はヨーロッパ社会からは消えていきました。
しかし、航海の発展で新たな世界への進出が激しくなった15世紀以降、アフリカやアメリカの植民地化という動きと同調して新たな奴隷制が広がりました。
そしてこれは古代の奴隷制と異なり人種的性格を持っていたために、根深い優等劣等意識を伴ってしまいました。
女性の権利というものは世界的にはまだまだ十分には解放されていないものです。
妊娠中絶の権利という図が掲載されていますが、無制限に認めるという国は欧米など世界の半分程度でしかありません。
日本ですらまだ無制限ではなく経済的理由で認められるという茶色の色分けです。
そしていまだに完全に禁止という国が中南米、アフリカ、中東のほとんどの地域で見られます。
同様に子どもの権利というものも地域によって大きく異なります。
少年兵という、戦闘に強制的に従事させられる少年たちが存在する地域がアフリカ・アジアなど多くの国に見られます。
教育を受ける機会が奪われ、働かざるを得ない子どもたちの存在もアフリカの特に中央部に広範囲に分布しています。
新しい権利では「インターネット利用権」というものもあります。
しかし、ニュースなどで「中国ではある言葉を検索しようとするとネット遮断される」などと言うことがよく言われます。
このようなインターネット切断がどのくらい起きているかという地図も興味深いものです。
するとその回数によって、黒・赤・黄・緑と色分けされていますが、中国はその最多の部類ではなく、実はインドが真っ黒でした。
中国はそれに次ぐ部類で、他にトルコ・イラクなどが入ります。
それに次ぐ黄色の地域がアメリカ、ベラルーシ、北部アフリカ諸国といったところ。
多くは緑色のネット切断無しで、日本もそうでした。
パッと目で見て分かるという点では地図の色分けというのは良い方法と思います。
