爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「長城のかげ」宮城谷昌光著

中国の秦帝国が滅び各地で有力者が湧き出て争う、楚漢戦争と言われる時代は最後には漢の劉邦と楚の項羽の争いとなり、劉邦が中国を統一しました。

国史の中では三国時代と並んで日本人の歴史好きの人々の人気を集める時代と言えます。

 

この本では宮城谷さんは主役である劉邦項羽の脇でそれぞれ懸命に生きていた脇役たちを扱う短編を収めています。

「逃げる」では項羽の将軍季布の逃避行。

「長城のかげ」は劉邦の側近の蘆綰。

「石径の果て」は儒者として劉邦に仕えた陸賈。

「風の消長」は劉邦庶子、劉肥。

「満天の星」では、やはり儒者として仕えた叔孫通。

おそらく普通の人は名前すら聞いたことのないような人々かもしれません。

 

脇役ではあってもそれぞれに乱世の中を最大限に努力して動き回ったことで何か後世の人間に印象を残すような人生を送っており、それを宮城谷さんが魅力を引き出して描いています。

 

特に、やはり学者という人々により親近感を覚えるためか、叔孫通の生き方には共感を覚えます。

秦帝国に招かれて弟子を連れて都に上るものの、博士としては待遇されず博士予備役と遇されたものの悲観せず自棄にもならずに耐え忍ぶ。

学者に対して始皇帝の扱いがひどくなることを見越して、言動に注意に注意を重ねて焚書坑儒などの大難を逃れる。

さらに陳勝呉広の乱が勃発した際には、学者に対してその対処を問われた時に他の学者たちは「乱はすぐに鎮圧を」と答えたのに対し「帝国が治まっているこの世に乱などはあり得ず、ただの盗賊だ」と追従のような言葉で答え、他の学者は罰を受けたところを恩賞を手にしたが、すぐさま逃げ出す用意をして秦の都を脱出したことなど、学問だけでない実際的な対処能力が非常に優れていたようです。

それから弟子との一行はあちこち逃げ回るのですが、劉邦と出会いその信頼を受けて漢王朝の礼儀作法を整える大役を果たします。

 

脇役とはいえそれぞれに味のある話ばかりとなっています。