爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「フェイクニュースを科学する」笹原和俊著

デマやプロパガンダというものは人間の歴史の最初からあったようなものですが、これが「フェイクニュース」となるとごく最近の出来事のように感じます。

これは言うまでも無く2016年のアメリカ大統領選挙戦でトランプが連発したことから認識されたものであり、著者の笹原さんはちょうどその時にアメリカのインディアナ大学で1年間の在外研究をしているところだったため、強烈な印象を受けたそうです。

そしてそのフェイクニュースについて科学的観点から考察をするということをやるべきだと考えて本書執筆に入ったそうです。

 

そのため、フェイクニュース現象というものを「情報生態系」の問題としてとらえ、その仕組みを解き明かしていきます。

そのため、伝統的社会科学的手法の他に計算社会科学という新しい学際科学の知見を取り入れたということです。

 

第1章では2016年の米大統領選からフェイスブック社のデータスキャンダルまでのフェイクニュース小史を扱い、フェイクニュース現象の全体を見ます。

さらに第2章から第4章ではフェイクニュースの拡散に関わる、人間の認知特性、情報環境、情報量の問題を取り上げます。

第5章で今後の方向を示しています。

 

ツイッター(現X)のようなSNSでの情報の伝わり方を研究しているグループがいくつもありますが、その成果として「偽ニュースは速く遠くまで拡散する」というものがあります。

事実のニュースと偽ニュースを比べた場合、リツイートされる回数は事実で10回だったのに対し、偽では19回、リツイートサイズが事実は1000人以上になるのは稀だったのに対し、偽ではさらに多く数万人になるものもも。そして速さでは最初の投稿がリツイートされるまでの速さは誤情報の方が事実の20倍速く、1500人に届くまでの時間も誤情報の方が事実の6倍速かった。

つまり「誤情報は事実よりも、遠く、深く、幅広く、速く拡散する」ことになります。

この理由について、研究グループは「虚偽情報の方が新規性を感じやすく、うわさになりやすい」さらに「誤情報に接した人が驚きや恐れ、嫌悪の感情を抱きやすく、情報共有を求めることになる」のではないかと分析しています。

 

フェイクニュースが拡散しやすい情報環境を産み出す一つの要因が「フィルターバブル」です。

これはユーザーの個人情報を学習したアルゴリズムによってその人が興味を持ちそうな情報ばかりを提示する機能です。

ネットで情報検索したり、通販で物を買ったりすると、それに関連するニュースや宣伝ばかり表示されるようになるというのは誰も経験していることでしょう。

これをパーソラナイゼーション技術と言うのですが、これが始まったのは2009年12月からです。

グーグルがユーザーのあらゆる情報を用いて興味を覚えそうなものを表示するアルゴリズムを採用したのがこの時だそうです。

著者が簡単な実験として、自分と二人の留学生で条件をすべて同じにして「life」という単語をグーグルで検索しました。

留学生二人は2017年に米国で公開された映画「life」の公式ページが最初に表示されたのですが、著者はNHKのコント番組「life」が上位に表示、次にクレジットカード「ライフカード」が表示されたそうです。

 

フェイクニュースに対抗し、ファクトチェックを行う組織の活動も進められています。

この活動は簡単に想像できるような「事実を調べて判断する」のではなく、対象の情報取り扱いの手法に不自然な点や誤りがないかを調べて判断するのだそうです。

こういったフェイク対策はありますが、やはり法整備が必要なのでしょう。

 

特に若い人にフェイクニュース耐性が低い人が多いようです。

なかなか難しい状況になっているということでしょう。