爽風上々のブログ

熊本の片田舎に住むリタイア読書人がその時々の心に触れたものを書き散らしています。読んだ本の感想がメインですが(読書記録)、エネルギー問題、食品問題など、また政治経済・環境問題など興味のあるものには触れていきます。

「もうダマされないための『科学』講義」飯田泰之+SYNODOS編、菊池誠、松永和紀、伊勢田哲治、平川秀幸著

シノドスとは、社会学現代思想、政治経済など他分野のセミナーを開催するという活動をしており、この本は特に2010年より「科学シリーズ」として開いていたものをまとめたものです。

ただし、2011年に起きた東日本大震災福島原発事故によって科学というものに対しての人々の意識も変わったことを踏まえ、平川氏の書き下ろし原稿を加えたということです。

 

各章の表題は、

第1章 菊池誠 「科学と科学ではないもの」

第2章 伊勢田哲治 「科学の拡大と科学哲学の使い道」

第3章 松永和紀 「報道はどのように科学をゆがめるのか」

第4章 平川秀幸 「3.11後の科学技術コミュニケーションの課題」

そして付録 片瀬久美子 「放射性物質をめぐるあやしい情報と不安に付け込む人たち」

となっています。

 

菊池さんは以前からニセ科学糾弾を続けてきていますので、ここでもそれに沿った話を展開しています。

 

伊勢田さんはこれまでは存じ上げませんでしたが、科学哲学や倫理学が専門の研究者ということで、やや観念的な見方が強いようです。

 

松永さんは以前から注目している科学ライターで、食品関係に主軸を置いているのですが、大学院終了後に新聞記者として活躍した期間がありこの本ではその経験から報道が科学をゆがめるということを述べています。

 

平川さんは原発事故後の問題についてこの本のために書き下ろした文章で、科学者集団に対する信頼の崩壊という問題と、それでも科学者からなんとか情報発信をしなければならない場合の在り方について論じています。

 

付録の片瀬さんの文章は、特に原発事故後に大いに飛び交った放射能についての怪しい情報について、その見分け方などを具体的に例示しています。

この付録を読んでから前の4氏の文章を読むとさらに理解が深まるということです。

 

 

菊池さんの話は以前から取り上げたものを再度解説していますので、私にとっては目新しいものではないのですが、未知の人にとっては分かり易い例でしょう。

マイナスイオン、EM菌、水からの伝言トルマリンといった、それなりに世の中を席巻した(まだしているものも)ものについて的確に片づけています。

こういったニセ科学は世の中を分かり易く説明してしまうという性格を持っており、それは民主主義的思考法とは相容れないものだと指摘しています。

 

松永さんは新聞記者としての経験から、報道姿勢というものがどうしても誇張や捏造、誤報を含むものとなってしまう点を説明しています。

「警鐘を鳴らす」ということが報道の使命だと考えている面があり、そこを上手く使ういわゆる専門家が狙って発言したものをそのまま報道してしまうことが多々見られます。

遺伝子組み換えのナタネが道にこぼれて繁殖したという例が一つでもあれば、そこから組換え遺伝子が蔓延「しかねない」と一応「?」付きで記事としてしまいます。

そしてその後の経過はまったく報道しようとはしないために、その事実が否定されても読者には何の断りもしないということになっています。

 

原発事故当時は、特にネット情報などでほとんど根拠のないデマが氾濫しました。

その例として、片瀬さんがあれこれ挙げていますが、その見分け方として提示しています。

情報・知識の根拠や原情報を示さない。

「関係者の内部告発」として伝聞調で示すがその関係者が実在するかどうかの証拠もない。

できるだけショッキングな話にする。

あちこちからデータをつまみぐい。

事実の誤認。

 

さらに、「危険情報ならデマであっても積極的に流して良い」という人たちもかなりいたようです。

 

なお、それに乗じて商売をしてやろうという人たちも頻発し、「放射能を分解する」とか「放射能の毒出しをする」なんていうものも出ていました。

マクロビオティック、EM菌・EM菌もどき、米のとぎ汁乳酸菌、ホメオパシーペクチンスピルリナといったものがそういう行為をしていたそうです。

 

反省ということができるのなら、こういう本を読んで参考にすれば良いのですが、もともとそういうこととは縁のない人たちは何度も同じことをしてしまうのでしょう。